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◎日本は豊かなのか 九月七日に『人間開発報告書2005』の世界同時発表があり、日本のマスコミでも報道されました。なかでも一九九〇年以来、毎年発表されている同報告書の「人間開発指数」で、日本が十一位に転落したことが大きく報じられていたのが目立ちました。 『人間開発報告書』は、国連の機関である国連開発計画(UNDP)が発行する世界の開発状況に関する報告書です。本書が発表直後から世界的に注目を浴びることになったのは、人間開発指数(HDI=Human Development Index)のためです。この指数は、国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)と同様に世界各国の発展状況を数値化したものですが、各国の収入以外の面にも注目して国の豊かさを測ろうと試みたものです。 世界の人間生活にかかわる統計すべてを収集し計算するのは不可能であるため、HDIでは極めて単純な三つの側面に集約して指数を算出しています。それは、(1)健康で長生きできる生活(平均寿命)(2)生活に必要な知識(就学率で測る教育レベル)(3)人間らしい生活をする経済的裏づけ(一人当たりGDP)―です。 さて、各国のHDIを算出し、成績の良い順に世界各国を並べると、面白い結果が出ました。世界最富裕国のアメリカが一位にならず、豊かではあるが大国ではない北欧諸国やカナダなどが上位を占めたのです。 日本は創刊年(九〇年)には一位でしたが、九六年三位、九七年七位、九八年八位、二〇〇〇年から五年連続九位、そして今年はついに十一位にまで下がりました。 この結果には、近年の経済状況も関係していると思われます。低下の原因については、統計手法をはじめ専門家の分析を待つ必要があるでしょう。しかし、他の先進国と比べて特徴的なことがあります。HDIの三要素のうち、日本は教育の評価が低いのです。これは、個々の生徒の学業の不振を示すのではなく、初・中・高等教育の総就学率が低いということです。日本の高等教育(大学院など専門課程)の就学率は、他の先進国と比較すると意外に低いのです。 高校・大学は全入に近くても、一度就職したら最後、より専門的な知識を学びたくても再び教育を受けることはかなり難しいのです。教育の評価が低いのは、新技術が日々創出される今の時代にあって、日本には大人が再教育を受けるシステムが不十分であることを示しています。一度乗り遅れたら、再挑戦しにくい社会、つまり選択の幅が限られている社会が、この背景にあると思われます。 戦後、日本は驚異的な経済発展を遂げ、その富を教育や保健医療をはじめとする人間の生活向上に効果的に投資してきました。だからこそ、高度経済成長期以降、私たちは豊かな生活を享受してきたのです。しかし二十一世紀に入り、この国は本当に人々を幸せにするような社会システムを提供できているのでしょうか。新しい時代に合った柔軟な社会こそ、今後の豊かさの鍵になるのではないでしょうか。 (上毛新聞 2005年11月22日掲載) |