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◎尊い使命自覚し精進を 「光もとめて呼ぶ声に 愛の小鳩(こばと)が羽ばたくよ 憂い分けあうはらからに 伸ばす愛の手この使命 担うわれらは民生委員」。この歌は全国民生委員・児童委員連合会が作詞した民生委員の歌『花咲く郷土』の第一節で、「愛の小鳩」とは委員が胸に着けている記章の別称である。 民生・児童委員は法のもと、厚生労働大臣の委嘱による特別公務員に属する。全国でその数約二十三万人、うち本県では四千三十九人が行政や組織の指導のもと、それぞれの受け持ち区域で住民が安心して暮らせるよう地域福祉の推進役、あるいは身近な相談役として活躍している。ときには、行政や諸施設とのパイプ役も務め、無報酬の身をむしろ名誉と心得て、昼夜の別なく奉仕の誠を尽くす大切な役目である。 民生・児童委員制度の歴史は古く、大正六年、岡山県においてこの源といわれる「済生顧問制度」が、その翌年には大阪府で「方面委員制度」が発足した。昭和三年にはこれが全国に普及し、実に八十八年の伝統を受け継いでいる。私は昭和五十五年、何も分からないまま委嘱を受けてしまったが、その後、使命の重大さを知るにつれ、身の引き締まる思いと、この上ない名誉を感じ、誠心奉仕を心に誓ったものだ。 その後、私は仲間の先頭に立つようになってから、新任者の研修会や全体会などの席上、次のようなことを口癖のように言い、一同を励まし続けてきた。 「今の世には人の模範となるべき立場であることを忘れ、道に反し悪事で裁かれる人たちが後を絶たないが、われわれ委員仲間には、そんな人は一人もいない。全国二十三万委員の最大の誇りであり、真に誠実な人たちの集まりだ」 自身も、そう固く信じていた。そして、退任で見送られる最後の席上でも同じことを申し、別れの言葉とした。 ところが、それから一年もたたない今年七月七日付の新聞記事にがくぜんとした。「民生委員の女逮捕」という大見出しのこの事件は、名古屋市内の女性委員が、独り暮らしの老女を強殺した容疑で逮捕された。信じ切って頼りにしていた人の手にかかった被害者のことを思うと、憤慨に堪えない。新任者とはいえ、人の心も任務もどうして忘れてしまったのか。八十八年の伝統と、二十三万委員の落胆は大きい。 私たちは、これが他県でのことであったのをせめてもの慰めとし、同時に県幹部委員であった立場から、民生委員を信じ切っておられる県民の皆さんに謝罪したい気持ちになった。単に遠くの出来事と片付けないで、初心を忘れてはならないという警鐘と受け止めたい。 「さちうすき 人の杖つえとも柱とも なりていたはる 人そとふとき」。これは昭和三十二年、当時の皇后さまが民生委員に賜ったお歌で、委員の真心を認められ、信頼とねぎらいの、この上ないありがたいお歌である。委員各位はこの重き尊い使命をさらに自覚し、住民の皆さんの信頼と期待を一身に受けて一層の精進を、と願っている。 (上毛新聞 2005年10月30日掲載) |