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◎住んで新しい息吹を 先日、れんが造りの倉庫を改造したピザ専門店が前橋市内にオープンしたというので、行ってみました。もともとは酒造会社の醸造蔵として昭和二年に建てられましたが、昭和四十五年に廃業後、倉庫となっていたものを手直ししたものです。外観をそのまま生かし、店内奥のオープンキッチンには、れんが造りのピザ釜もありました。この店のオーナーは醸造蔵を造ったれんが職人の孫で、前橋の土で焼いたこのれんが建築を後世に残したいと思い、必要最小限に手を加え、現在の店にしたのです。 私は十数年前、週末や休祭日を利用して旧中山道百三十九里(およそ五百四十キロ)六十九宿場を二年かけて徒歩で旅しました。江戸時代の地図を片手に道なき道を進み、幾多の峠を越え、江戸時代から営んでいる旅はた籠ごに泊まるなど延べ二十八日間、旅の人情や田舎暮らし、日本建築を堪能しました。木曽路は有名で、奈良井宿、妻籠(つまご)宿、馬籠(まごめ)宿に訪れる人は多いですが、それ以外の贄にえ川かわ、楢川、薮原などの宿場町も昔ながらの古い家並みが見らます。 私が泊まった須原宿の旅籠は、おかみが一人で切り盛りしていて、三百年前からたかれている囲い炉ろ裏りがあり、それを囲んで、旅人が酒を酌み交わし、お国自慢に花が咲きました。風の便りでは、数年前におかみが亡くなって、旅籠の戸を締めたとか。これでまた一つ、歴史の灯が閉ざされてしまうのでしょうか。 これまで私は、普及員として多くの農家を訪れていますが、甘楽町のMさん宅は三百年前に高い石垣の上に建てられた家で、今も住んでおられます。ほかにも県内各地には百年、二百年前の木造家屋がたくさんあり、台所や風呂、トイレなどの水回りや土間、屋根、外壁などを改善して住まわれています。たいていのお宅は、自分の山で切ったヒノキ、ケヤキ、スギなどの大木を使っており、長い歳月の中で風雨や地震に耐えてきた素晴らしいものばかりです。 また、一カ月前に行った新治村(現みなかみ町)には、たくみの里の一角に江戸時代に建てられた庄屋の屋敷を移築し、平成十一年から「百姓体験屋敷」として、農業体験やそば打ち体験などができる交流施設として活用されている事例もありました。 百年、二百年前の建物は、素材や建築技法が優れており、丈夫で外観的にも美しいものです。重要文化財ほどではないのですが、歴史的、文化的にも、地域産業からみても残したい建物はたくさんあります。価値のある建物でも、そのまま放置しておけば、朽ちてしまうのは時間の問題です。「原形を残そう」というのではなく、その建物を使う人が価値を認め、素材や外観の良さ、構造の特徴を生かしつつ、環境や用途により多少施して、よみがえらせていただきたい。いわゆる「博物館入り」として保護、隔離するのではなく、そこに住み、使うことで息吹を与えます。そのためには、法律改正や必要な事業、例えば時代建築再活用事業など、何らかの支援策が必要でしょう。 古い建物を簡単に壊す発想を転換し、群馬の気候、風土にあった建物をよみがえらせる取り組みに変え、併せて「先人の技」を受け継いでいただきたいと思います。 (上毛新聞 2005年10月28日掲載) |