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◎問われる的確な検証 この「視点」において、私は世界遺産の登録とからめて旧富岡製糸場のみに特化して問題提起をしてきたつもりである。 当工場の実績については先学の多くの研究が積み重なっているが、昭和五十二年刊の『富岡製糸場誌』が根本資料集としての機能を果たし、当工場の価値付けを不動なものとした。 さて、六十二年に片倉工業が操業を休止して以来、限られた範囲内で一般公開を行い、併せて夏季休業中は退職校長会が中心となって見学解説会が行われている。 主な建造物は明治五年の創業以来のものではあるが、当時の内部施設、例えばフランスにおいてブリュナが特注した製糸器械や蒸気エンジンなどは岡谷市立蚕糸博物館や犬山市の明治村に保存されていて地元にはない。特に器械製糸で彼が初めて試み、それが後の器械製糸に広く普及した生糸の揚げ返し機などの実物は既に姿を消してしまっており、わずかに当時の写真で確認できる程度である。 産業革命がまったく手づかずだったわが国において、世界最大の器械製糸がブリュナを首長とするフランス人の指導のもとに操業され、わが国の器械製糸の普及に大きな貢献をしたこと、またブリュナは富岡を離れた後に上海の器械製糸場に招かれて当地の器械製糸の発展に尽くした事実を考えたとき、当工場が与えた影響力は日本国内だけではなく中国にも及んでいたと考えることができるのである。 このように見たとき、当工場が国の史跡や重要文化財に指定され、さらに世界遺産に登録される暁には、当工場の持つ歴史的・文化財的価値をより的確に検証するかが問われることになる。これはまた、いかに充実した活用を図るかということにも直結する課題である。 さて、私が勤務している富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館には博物館機能としての郷土資料展示室があり、富岡の歴史と文化を通史的に概観できるようになっている。 その中で特に力点を置いた部門は、富岡製糸場のコーナーである。当時の繰糸場の様子を知るためにジオラマを作製して内部の状況を再現し、製糸器械のレプリカを展示したり、また当時のレンガ、瓦、写真や錦絵等を展示して、国内では卓越した近代的な施設設備の状況を目で確かめられるように工夫している。 レプリカの製糸器械と写真を重ね合せて駆動方法を見ると、五馬力の蒸気エンジンからの力の伝動はベルトではなく、シャフトによっていることが明瞭(めいりょう)となる。記録によれば蒸気エンジンからの力は「運配する原機関は全すべて地中に設施し」とあるところからもシャフトによることが分かる。 このような他に類例のない設備を学習してもらうために特色ある展示を試みているわけであり、そこに博物館の一つの役割があると考えている。同様に、旧富岡製糸場が世界遺産として機能するためには、それをいかに生かそうかとする思念と財政的措置が真剣に求められなければならない。 (上毛新聞 2005年10月18日掲載) |