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◎命と健康を守る社会に 今、日本の社会はアスベストパニックに陥っています。ビル・住宅から自動車・日用品まで幅広く使用され、しかも強い発がん物質なのですから当然です。 アスベストの危険性は古くから知られており、一九七一年には労働者の安全のために発がん物質規制がなされています。八七年には、アスベスト粉じんを吸い込まないためのマニュアルなども作られています。九五年の阪神淡路大震災のときは、倒壊した建物からアスベスト粉じんが飛び散っただろうとも言われています。 それにもかかわらず、主要アスベスト製品十種類の禁止政令が施行されたのは、何と二〇〇四年十月。それまで日本のビルや建物にはアスベストが使われてきました。吹きつけアスベストが禁止されたのは〇五年七月です。 アスベストはけた外れの発がん物質で、発病までに二十年から三十年かかります。BSE(牛海綿状脳症)の異常プリオンによるヤコブ病も同様です。異常プリオンに汚染された乾燥硬膜移植による薬害ヤコブ病は、対策が世界一遅れて、世界一多くの被害者を出しました。薬害ヤコブ病裁判では国の責任が問われました。 ダイオキシンも同じです。八三年、愛媛大学の立川涼教授(当時)がごみ焼却場から初めてダイオキシン発生を報告したのに、当時の厚生省は検討会を設置し、今ただちに人の健康に影響を与える恐れはないという報告を出させて放置したため、対策が世界に十年以上遅れてしまったのです。 アスベストによる労働災害は厚生労働省の管轄ですが、周辺住民や家族の被害を救済する法律も手段もありません。その労働災害でさえ、自分がアスベストを吸ったことを知らずに亡くなった人もたくさんいるのです。肺がんの場合は、医師から因果関係を証明してもらえないという問題もあります。これはシックハウス問題も同様です。 また、個々にアスベスト対策をしたくても、除去には莫ばく大だいな費用がかかります。汚染者負担の原則でいえば、アスベストを吹き付けた事業者の費用で除去すべきですが、バブルとバブル崩壊があって、すでに倒産してしまった事業者もたくさんあります。こうした費用負担問題はカネミ油症と同じです。カネミ油症被害者はアスベスト同様、夢の物質とされたPCB(ポリ塩化ビフェニール)と、ダイオキシンに汚染された油を食べてしまったのですが、加害企業であるカネミ倉庫が零細なので、損害賠償金すら回収できません。 最近読んだ『未来世代への「戦争」が始まっている』(綿貫礼子ほか・岩波書店)の中に、キャロリン・マーチャントというアメリカの思想史家の「生きた魂を持った自然が死に、その代わりに、死んだ、魂を持たない貨幣に生命が与えられた」という現代に対する痛烈な批判が紹介されています。 手で触れたものがすべて金になるという力を授かった王様は、食べるものもなくなりました。金より命と健康を大切にする社会にしないと、本当に自然も人も未来も滅びてしまいます。 (上毛新聞 2005年10月14日掲載) |