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◎判断基準がずれている 普通、人はあえて事を荒立てたいとは思わない。ただ最近、ことさら事を荒立てる人がいるかと思えば、一方で放置してはいけないと思われるようなことに事なかれ主義で対応しようとする風潮もあるようだ。 最近、JR東日本の中央線で実際にあった話である。 閉まりかけたドアをこじ開けて乗り込んできた乗客がいた。危険でもあるし、他の乗客に迷惑もかかる。そこで車掌が「駆け込み乗車はやめてください。そんな乗り方でけがをしたときはお客さまの責任です」と車内放送をしたところ、これを聞いていたほかの乗客があとから「不快な言い方の車内放送でけしからん」とJR東日本に苦情を言ってきたのだそうである。 JR東日本では事実関係を確認の上、その車掌を注意処分にしたそうである。その車掌は内心どう思っただろうか。きっと、今度閉まりかけたドアを無理やりこじ開けて入ってくるお客がいても、黙っていようと思ったかもしれない。 一方、これも実際、現場の中学校の先生から聞いた話である。 あるとき、先生が生徒にけ飛ばされた。そのとき、先生はどうするか。昭和三十年代後半、中学生時代を前橋で過ごした私にとって、生徒が先生をけ飛ばすことなど考えられないことであり、想像を超える話である。その先生によれば、そういうときは逃げるのが一番なのだそうである。 なぜなら、け飛ばし返すとか、げんこつを見舞うとかしたくなるが、そんなことをしたら親が抗議に出てくるばかりか、PTAが乗り出してきたり、マスコミに報道されでもしたら教育委員会ざたになり、自分の身が危うくなりかねないという。従って、逃げてやり過ごすのが一番現実的な対応だというのである。でも、生徒にけ飛ばされて逃げる回る先生をほかの生徒が見たら、何と思うだろうかと考え込んでしまった。 JR東日本のケースがマスコミで報道され、JRの対応について当時、四百件以上の意見が寄せられたそうである。そのうちの九割は車掌の対応を支持し、会社の車掌に対する処置に異論を唱えたものだったそうである。 中学校の先生も、私の「それっておかしくないか」と言うのに対し、「自分もおかしいと思うけれど現実的には仕方がない」という。 どうしてJR東日本は車掌を処分し、先生は逃げ回ることになるのだろうか。 要するに、目の前で起きた当面の事象(車内放送についてJR東日本に抗議が寄せられたこと、生徒が先生をけ飛ばしたこと)について、これ以上、事を荒立てない方が賢いということなのだろうか。どうも、どこか判断基準がずれているように思うのだが。 (上毛新聞 2005年10月9日掲載) |