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日本釣振興会県支部長 秋本 國さん(高崎市上中居町)

【略歴】高崎商卒。全日本フライキャスティング大会チャンピオン。県内水面漁場管理委員、県「瀬と淵を取り戻す」検討委員。フィッシングショップ・アライ経営。

群馬のアユ復活


◎清流に戻すことが急務

 今年の六月末、「上田市の千曲川にアユ釣りに行かないか?」と誘われました。私は即座に「あんな汚い川でアユ釣りはしたくない」と断りました。

 千曲川の上田地区は三十年前、すでに汚い川でした。その後も水の汚れはひどくなり、今から十五年前、上山田温泉より一キロほど上流へ入ったときのこと、川はどぶ川特有のにおいがしていました。帰りの車の中は、ぬれた下着と釣り具のどぶ川のにおいで、気分が悪くなるほどでした。塩焼きにしたアユを口に運ぶと、石油臭いにおいがして、とても食べられません。水の汚れに比例して、アユも年々釣れなくなり、千曲川でここ十年間、私はほとんど釣りをしていません。

 しかし、友人が「今の千曲川は昔と違って、水がすごくきれいになった。魚もきれいでおいしい」と、まじめ顔で言うものだから、「だまされたと思って…」と七月初め、上田市へ行ってみました。

 水辺に下りて近くの岸を見ると、昔は泥やヘドロが目立ったが、小石や砂利がほとんど。昔はひざまで川に入ると、自分の靴がぼやけて見えたものだが、今は胸まで入って靴先の砂のつぶつぶまで見える。さらに、腰丈くらいの深さの所で対岸を望むと、三十メートル以上先まで広角に川底がはっきり見える。水があるのを感じさせない透明度です。

 今年の千曲のアユは独特のスイカのにおいが漂い、釣れたアユはとてもおいしかった。十五年前の千曲川の情景が脳裏に焼き付いている自分にとって、別の川に来たのではないかと錯覚してしまうほどです。友人の話では「五年前ごろからきれいになってきて、ここ三年は特にきれいだ」とのこと。環境破壊が激しい時代に、千曲川ほどの大河が昔より水がきれいになったとは、奇跡に近いことではないでしょうか。

 ところで、群馬の川はどうでしょう? 多くの釣り人に聞いたところ、残念ながら、以前より水が汚れた河川はたくさんあるが、きれいになった河川はありません。群馬で育てたアユの稚魚は、県水産試験場の長年の研究と努力で、年を重ねるたびに良くなってきています。しかし、農作物と同じで、良い種をまいても良い畑がなければ多くの収穫は望めません。事実、群馬の河川で良い釣果は、水のきれいな上流域に集中しています。

 漁業組合はアユの稚魚を同じ日に同じ川に放流しています。一カ月後に成育状況を調べていますが、上流域のアユは順調に育つが、中流域ではいつの間にか姿が少なくなってしまいます。カワウの食害があるにしても、その主な原因は、どう考えても、水の汚れにあるとしか思えません。

 釣り人は皆、清流で釣れる美しいアユがたくさん釣れるのを望んでいます。アユは食べておいしい魚、家族で食べるにも人にあげるにも、清流で釣れたおいしいアユを食べていただきたいものです。群馬のアユを復活させるには、二十年前の群馬の川のように、清流に戻してあげることが急務であると思えてなりません。

(上毛新聞 2005年10月6日掲載)