視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
新生会・地域生活支援センター所長 鈴木 育三さん(榛名町中室田)

【略歴】立教大大学院応用社会学研究科修了。聖公会神学院専任講師を経て、84年から社会福祉法人新生会理事。地域生活支援センター所長。群馬社会福祉大短期大学部講師。

高齢化社会


◎福祉を後退させないで

 九月十五日は「老人の日」でした。毎年、この日から一週間を「老人保健福祉週間」と称して、長い間、社会に貢献してきた高齢者を尊敬、その長寿を慶祝し、高齢者福祉への関心を深めています。今年も人生の先輩方が、安心して生活できる社会環境を整え、その向上に努めることを意識したさまざまな企画・行事が行われました。

 この日の由来については、古くは聖徳太子が、悲田院(身よりのない老人や病人、貧しい人たちを救済するための施設)を開いた日という説、また、元正天皇が「養老の滝」へ行幸し、「醴れい泉せんは美泉なり。以もって老を養うべし」とのたまい、七一七年に「養老」に改元したという説があります。

 「敬老の日」は一九四七年、兵庫県野間谷村(現八千代町)の村長が提唱した「としよりの日」が始まりとされています。当時、村では老人を大切にし、お年寄りの知恵を借りて村づくりをしようと、気候の良い九月中旬の十五日を「としよりの日」と定めました。この運動は全国的に広まり、老人福祉法の制定(六三年)で全国的に九月十五日が「老人の日」となりました。六六年には同日が国民の祝日として「敬老の日」となり、老人福祉法の改正で「老人の日」も「敬老の日」と名前を変えました。

 さらに、二〇〇一年の祝日法改定に伴い、〇三年から九月第三月曜日の移動祝日と定められました。九月十五日は老人福祉法の改正で再び「老人の日」となり、今日に至っています。

 県内では、百歳以上の方が過去最高の四百人を超えるそうです。まことに慶賀の至りです。日本が世界に冠たる長寿高齢化社会を実現した背景には、日本国憲法制定以来六十年間「平和・非戦の誓い」の国是を守り続けてきたたまものだと思います。

 戦争は、他者をいたわる人間の心・いのちのみならず、あらゆるものを破壊してしまいます。先輩方の多くは、戦争のもたらした惨禍によって、人生の辛酸を味わってこられました。その荒廃の中から、深い悲しみと悔悟の心をもって生まれたのが「平和憲法」です。ここで全国民の生涯にわたる福祉を約束する憲法第二十五条を確認しておきましょう。

 そこには「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と明記されています。この第二十五条は、第九条(戦争の放棄)とともに世界に誇ることのできるものです。この憲法の精神を基として、老人福祉法・老人保健法をはじめ、さまざまな福祉政策が立法化されてきました。

 二〇〇〇年に施行された「介護保険制度」は、国の財政事情の悪化により見直しを余儀なくされ、急きょ十月一日から介護保険施設等の利用者負担が増えます。来年四月から、さらに改変が進められます。高齢者の福祉が後退し、不利益をこうむることがないようにと、古くから伝わる貧しい若者の親孝行の物語「養老の滝」を思い起こすのも意味のあることでしょう。

(上毛新聞 2005年9月30日掲載)