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スバルテクニカインターナショナル社長 桂田 勝さん(太田市金山町)

【略歴】東京都出身。東京大工学部航空学科卒。66年富士重工業入社。米国ミシガン大高速自動車研究所客員研究員を経て、常務執行役員、技術研究所長など歴任。

異文化との共存


◎腹八分の余裕を持って

 昨年の日本の死亡者数が出生者数を上回ったと発表されました。二〇〇六年をピークに、わが国は人口減少の局面を迎えます。ニートの増加と団塊世代が定年を迎える時期が重なり、さらに中国をはじめとした海外への企業進出などで国内労働者が減り、今後日本の活力が低下することが予想されます。その分、海外からの労働者の流入が増え、異なる文化を持った人たちとの共存が進んでいくでしょう。好き嫌いは別にして、グローバリゼーションの大津波が押し寄せてくることになります。

 世界を見ると、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど移民が異文化を持ち込んで共存の歴史をつくってきた国もあり、ヨーロッパのように狭い中にひしめく異文化の衝突によって勢力図が書き換えられ続けてきた地域もあります。それに比べて日本は極東の島国という地理条件でほぼ単一民族な上に近世は鎖国もし、異文化との接し方が一番下手になるような道を歩んできた国なのかもしれません。そんな今の日本が大津波の勢いを受け入れることができるでしょうか。

 異文化を受け入れるためには、まず異文化の存在を知ること、次に異文化にも共通する真理を見つけ出すこと、その上でそれらを認めることが必要です。

 異文化を知るためのヒントの一つとして、アメリカでは自分の祖先を調べるという教育が行われています。十七世紀のメイフラワー号までさかのぼれたり、アフリカから連れて来られた奴隷であったり、それ以前からの先住民だったり、近年移住してきたばかりだったりと、誰もが文化の衝突と融合の結果で一人一人の人間が存在することを知るのです。

 次は、私の身近な例えになります。WRC(世界ラリー選手権)のチームメンバーは百二十人ほどが十カ国を超える国々から集まっているので、それだけで異文化の集合体です。世界一を狙うにはそれぞれの良いところを生かさなければなりませんが、ときには背景となる文化の違いによって意識の衝突が起こります。それでも絶対に勝ちたいという、より強い共通意識があるので結局うまくいくのです。

 日本には腹八分目という良い表現があります。決して我慢することではなくて、満腹に足りない方がむしろ調子が良いからであり、完璧(かんぺき)でないがゆえにゆとりと面白さにつながるのです。異文化に接した時にはもちろん、できる限り理解することも大事ですが、違う部分を完全にすり合わせなければいけないと思い込むのは良くありません。せっかくですから、腹八分目の余裕を持って異文化を異文化として認めたいものです。残り二分を自由に使える日本的発想の先に、理想のグローバリゼーションがあるのだと思います。

 本県は日本でも有数の外国籍住民の多い県です。今後もさらに増加していくでしょうし、そういう人たちが何の心配もなく日本社会で生きていけるように、無料で日本語や習慣を学んだり相談を行ったりできるインターナショナルセンターをもっと充実させてほしいものです。

(上毛新聞 2005年9月23日掲載)