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「21世紀堂書店」経営 峰村 聖治さん(高崎市八千代町)

【略歴】早稲田大卒。書店経営の傍ら、子供の将棋教室を開く。店舗半分を改装した無料の貸しギャラリー「あそびの窓」を開設。元高崎市小中学校PTA連合会長。

食卓の崩壊


◎いま真剣に考える時

 太平の眠りを覚ます孫育て たった二人に右往左往―。

 昨年一月に三十四歳の夫を亡くした娘と、二人の孫との共同生活も五カ月が過ぎた。

 毎朝、私は新幹線通勤する娘を高崎駅まで送り、妻は孫二人に朝食を食べさせ、保育園に送って行く。娘の出勤から孫を保育園に無事送り届けるまでが一日の勝負。まさに、孫二人対祖父(ジージ)祖母(バーバ)の格闘である。

 そんなある日、娘から一冊の本を手渡された。岩村暢子著『変わる家族 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識』(勁草書房)。本の帯には次のように書かれている。

 「朝は起きないお母さん、お菓子を朝食にする家族、昼を一つのコンビニ弁当で終わらせる幼児と母、夕食はそれぞれ好きなものを買ってくる家族などをはじめ、テレビも雑誌も新聞も取り上げることのなかったごく普通の家庭の日常の食卓の激変ぶりがこの調査によって初めて見えてきた」

 私は一読して強いショックを受けた。わが家は少数派だと娘は言う。ひたすら妻の作る料理を残さないように食べ続けてきた私には、にわかには信じられない内容なのだ。

 著者の第二弾『〈現代家族〉の誕生 幻想系家族論の死』(同)には、以下のようなことが書いてある。
     ◇
 現代主婦(一九六○年以降生まれの主婦)が作る家庭の食卓の崩れは、その母親(六十―七十代前半)つまり、今のおばあちゃんたちから変わった。このおばあちゃんの世代は食糧難の時代に育ち、親にちゃんと作ってもらった食べ物の記憶がない。敗戦により価値観が一変し、今までのことは間違いで、新しい時代を生きろと教え込まれた。

 だから、自分の娘に何か伝えたり教えたりするよりも、自由意思を尊重した。あえて料理を教えることもなく、娘たちも学生時代は部活で忙しく、勤めたら帰りが遅く、結婚するまで台所に入ることはなかった。また、結婚前は料理を身につけるよりも、好きなことをさせてあげるのが親の役割だと思っていた人もいる。

 戦後教育の最大目標は、「情報処理能力」に置かれ、人間が毎日コツコツと積み重ね、体で覚える「習慣能力」は学校でも家庭でも軽視されてきた。だから現代主婦は本を見れば料理を作れるが、食事を日々作り続けることができなくなっている。彼女たちは食べることに手をかけるより、公園遊びやママ友との交友、おけいこ事の送迎と「子供をより良く育てるために」しなければならないことがほかにあると考え、子供や家庭の食事がおろそかになってしまうのだ。
     ◇
 食は健康の源であり、衣食住の中で一番比重が大きい。食卓の三分の二を中食と外食が占める今、日本人は食の問題を真剣に考える時にきている。特に子供の健康問題は待ったなしだ。国家や企業にも、国民の健康維持・国産食増産や地球環境の保全のために何ができるかが今、緊急に問われている。

(上毛新聞 2005年9月19日掲載)