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◎形を踏まえ個性を展開 八月七日午前九時半、浅草は早くも三〇度に達する暑さだった。小さな店の立ち並ぶ雷門近くの浅草公会堂入り口には長い人の列ができていた。授業力を向上させたいと願う教師たちのサマーセミナーが始まるところだった。主催者はTOSS(東京教育技術研究所)という全国約一万人の会員を擁する組織で、代表者は長く小学校の教師を勤めてこられた向山洋一氏である。沖縄の南大東島、北海道の礼文島など全国から自費参加した約千百人の教師で公会堂は満員となった。 TOSSの活動理念である「授業は必ず上達する。上達には法則がある。上達する集団に所属することが一番の近道である。それは、上達のシステムがあるからである」の下に自主参加する教師たちの授業力を、A―Fの六段階にランク付けする模範検定がそこで行われることになっていた。 午前中の研修では、指導者格の教師によって、児童・生徒一人一人に教師のまなざしが行き届いていなければならないこと、授業の始まりのいわゆる「つかみ」の十五秒間に、クラス全体を学習に引きつけなければならないこと、児童・生徒にはいつも笑顔をもって接すること、授業の組み立てやリズム、教材の説明と使用にあたっての注意等の具体的な授業法が、スライドやビデオ等を使って説明された。午後には、壇上で公開検定が行われた。参加者のうち十人ほどが壇上に用意された机に席をとり、模擬生徒となって検定を受ける教師たちによる授業が各十分間行われた。 これらの授業に対して、評価が項目別に下されることとなる。授業の一つに、外国人教師が和服姿で登壇し、落語を取り入れた英会話の授業を披露したが、これは優れた授業として表彰された。初等教育では、専門外の授業もこなせなくてはならないので、数学が専門の教師が国語の授業に挑戦する例もあった。厳しい評価はユーモアで味付けされ、会場には笑いや拍手、嘆声が繰り返され、夕方五時までの六時間半は、熱気のうちに一気に過ぎていった。セミナーには東京学芸大学の鷲山学長、千葉大学の明石教育学部長も出席し、報道関係者の姿も見られた。 向山氏の持論である「授業方法には、柔道の形のような、一定の練り上げたパターンが必要である。教師の個性は、その形を踏まえた上で展開されなくてはならない」は、医学教育に携わってきた者には至極当然と思われる。外科の教授が新人医師に「君の考え通りに手術をしてよい」というはずがない。新人医師は、手術の術式を何度も繰り返し見学した後、手術助手を務めるなど、術者としてメスを任せられるには何年もかかる。 初等・中等教育にも基本があるはずであり、努力を重ねた進歩は評価されなくてはならない。それを実践しているTOSSの原点は、佐波郡境町(現伊勢崎市)の島小学校で教えていた故斎藤喜博氏にあることを宮城教育大学の横須賀学長が教えてくれた。向山氏にお聞きしたところ、「そのとおりです」との答えで「斎藤喜博を追って」という、ご自身の著書を紹介いただいた。戦後、日本中の手本となった教育実践者で、佐波郡芝根村(現玉村町)に生まれ、群馬師範学校卒業生である斎藤氏の足跡を今後学んでみたいと思っている。 (上毛新聞 2005年9月17日掲載) |