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◎腰を据えて誇れる物を 近ごろ、地域ブランドについて尋ねられることが多い。背後に厳しい財政や地場産業の空洞化など深刻な事情があるからだろう。 地域ブランドとは、夕張メロンや有田焼や結城紬つむぎのように、地域の産品やサービスの競争優位を確保しようと、地域のイメージや資源で知名度を上げて産品の付加価値を高めるためのブランドのこと。こうした地域ブランドで地域を活性化しようとする意欲は評価できるが、現地を訪れてみると意外に問題点が多いことに気づく。 例えば、うらやましいほど立派な景観や歴史や文化などの資源を持ちながら、その価値に一番気づいていないのが当の自治体や住民であったり、逆にありふれた景色を観光の目玉に据えて自慢しているケースもある。 また、せっかく地域ブランド産品を開発したのに、マーケティングができていないため一向に売れなかったり、地域ブランド推進委員会を立ち上げながら、メンバーの対立や温度差で挫折したり、企画会社に頼んで地域ブランドを開発し、マスコミに取り上げられたが、肝心の産品は全くお粗末であるなど、抱える問題はさまざま。一言で言って、ブランドの中身やお客よりもネーミングや目先の成果に関心があるようだ。 しかし本来、ブランドとは完成度の高い製品やサービスが先にあって、後からそれを象徴するにふさわしいネーミングをつけるのが順序であって、あくまで中身が主役のはずである。 例を挙げれば、日本には江戸小紋や有松絞、有田焼、輪島塗といった完成された地域ブランドが数多くあるが、どれも一朝一夕に生まれたものではない。磨きぬかれた匠たくみたちがお客のために、地域の自然や風土や文化や原料を生かしつつ育て上げ、時間をかけて熟成させてきた産品なのだ。このように中身が完成されているからこそ、素人でも一目で備前焼と益子焼と萩焼を見分けられるほど各地域ブランドは個性的なのだと思う。 もうひとつ気になるのは販売の問題である。今の産地はほとんど販売を産地外の流通業者に頼っているが、かつてはどこも産地内に企画や販売の機能を備えた自己完結型産地だった。 しかし、今ではものづくりだけに特化して、売ることに関しては素人に近い。せっかく立派な地域ブランドを開発しても販売が他人委せでは、同類品との価格競争に巻き込まれて大きく育つのは難しいのだが、現状は目先の危機を地域ブランドで乗り切ろうとの焦りばかりが先行して、最も大事なものづくりの原点やサービスや販売の原点を軽視しているようだ。これでは、いくら地域ブランドが生まれても、十年後に果たしていくつ残っているだろう。 その意味で一時的な地域ブランドブームに踊らされることなく、じっくり腰を据えてまず人材、特に人の心が分かる職人を育て、併せて地域の宝を生かした産品やサービスを開発し、住民自らが誇りをもって売っていく、そんな地域ブランドを育ててほしいものである。 (上毛新聞 2005年9月6日掲載) |