視点 オピニオン21
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前橋工科大学大学院助教授 石川 恒夫さん(軽井沢町軽井沢)

【略歴】早大及び同大学院で建築を学ぶ。ドイツ留学を経て、97年から前橋工科大学に着任。現在、同大学院助教授。専門は建築論、建築設計。工学博士。

子育てしたい環境


◎鳥の巣づくりに核心が

 妊婦や子育て中の母親の80%は、周囲や世間に対し「積極的に子供を産んで育てたい社会ではない」と否定的に感じていることが八月一日、財団法人・こども未来財団のアンケートで分かった。子を産み育てたい社会ではないことを、それは意味するがゆえに、事態は深刻である。男性の子育てに対する理解と協力は不可欠であるし、子育てを応援する地域や社会構造が必要であることはいうまでもない。少子化に歯止めがかからない現状も、当然の帰結であろう。

 最近、鳥の巣コレクターの鈴木まもるさんの著作を何冊か手にする機会があった。彼は世界中を歩いて、鳥の生態を巣の視点から調べ、生命の不思議と尊厳を訴えている。『鳥の巣研究ノート』(あすなろ書房)は、子供向けながら、芸大に学んだ著者の美しいスケッチに、大人も魅了される。しかもその内実は、バウビオロギー(健康な住まいを求める新たな学問、建築生物学・生態学)の核心に触れているのである。

 例えば、昨今問題となっている鳥インフルエンザについてであるが、ニワトリも元来、巣をつくる動物である。しかし、現在のニワトリ小屋のような、身動きも取れない人工的な飼育によって、ニワトリは本能として持っている巣づくりができない。満員電車のように詰め込まれて、卵を強制的に産まされているのである。その中で過度のストレスにさいなまれ、次第に体力を低下し、病気に感染しやすい状況に陥っているというのである。

 鳥が巣をつくるという行為は、安心できる場所をつくる、生物として子孫を残す場所をつくるということであり、それがニワトリの生態の中で、阻害されているのである。これは現代に生きる、生物としての人間にもそのまま当てはまる事実ではないだろうか。

 鳥は自分で材料を探して、外敵や自然から守る最適な場所に最適なかたちの巣を施工する。私たち建築の専門家も、巣づくりとしての住まいづくりを、施主と「ともに」つくるという意識を高め、自己教育していく必要があり、ここにバウビオロギーの一つの課題があろう。

 昨年秋から軽井沢に住み始めた。四季折々の自然の美しさは言葉にならない。別荘地の歴史(レッテル)があるが、夫婦ともにドイツに住んでいた経験から、普通に住まう場所であると見極めた。内外部の塗装や左官工事、家具製作の大部分は夫婦で行った。経費削減の意図もあるが、住まいをパートナーとして考えているからである。輻ふく射しゃ熱を利用した壁暖房をはじめとして、住まいづくり全体が実験である。

 あるとき、授業中に学生から「先生は木の香りがしますね」と言われて、あらためて木の住まいの生命力を実感した。ほどなくして新たな命が妻に宿り、間もなくその子が地上に現れるこの不思議な事実を思うとき、子がこの環境を選んだのだという、なぜか確信に満ちた思いを抱くのである。

(上毛新聞 2005年9月5日掲載)