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元東海大学医学部小児外科学教授 横山 清七さん(神奈川県茅ケ崎市)

【略歴】富岡市出身。新島学園高、慶応大医学部卒。第19回日本小児がん学会長。現在、病気とたたかう子どもたちに夢のキャンプを創る会会長、大磯幸寿苑施設長。

手話


◎小学校教科に加えたい

 人は手話を理解するとき、音声を聞くときと同じ脳の部位が活発になることが、機能的MRI(磁気共鳴画像装置)検査で分かった。また、左脳(言語中枢がある)の損傷が起こると、手話の失語(失語症=脳血管障害により言葉を理解できない、または言葉をしゃべれなくなる症状)が起きるという。

 私が会長を務める「病気とたたかう子どもたちに夢のキャンプを創つくる会」の主催で、小児がん経験者(小児がんにかかり、治療中あるいは治った子供たち)に参加を呼びかけ、二月末に北海道滝川市の丸加高原で冬季キャンプが行われた。

 白血病、その他の小児がんを克服した十七人の小中高校生、大学生が全国各地から招待され、ボランティアとして医師、ナース、小児がん経験の成人、地元の人たちなどが参加、そり滑り、歩くスキー、雪合戦、雪上サッカー、スノーモービルなどで積雪約二・五メートルの粉雪を満喫した。夜はキャンドルチャット(ろうそくの灯を真ん中に皆で話し合う)、室内ゲームなどで全員が仲良しになることができた。

 キャンププログラムの進行役はなぜかリーダーではなく、ピエロと呼ばれていた。ピエロは大阪から来たあだ名を「チャン」という大学生で、最初の参加者全員の自己紹介の仕方もゲーム感覚で行ったり、初対面の子供たちをうまくまとめ、楽しませてくれた。

 中でも楽しかったのは、手話のしぐさを一緒にした歌「虹」をキャンプの歌として何回も歌ったこと。雲が流れて、雨が上がり、見上げてみれば、虹がかかり、くしゃみがひとつ、あなたも僕も、心は晴れて―など等、それぞれの歌詞に対応する一つ一つのしぐさが日常的に使っているもので、すべてが自然で、分かりやすいしぐさであった。なるほど、これが手話なんだと初体験の僕は感心してしまった。

 キャンプを終わって、老人介護施設の医師という仕事に戻った僕が、すぐに気が付いたのは難聴のご老人たちに手話でコミュニケーションを取ることができるのではないか、ということであった。早速、主任介護士に手話によるコミュニケーションの可能性について尋ねたところ、難聴だけではなく、老齢あるいは脳血管性による痴呆症状が合併していることが多いため、なかなか難しいとのことである。

 小学校唱歌や童謡、子供のころに覚えたしぐさ、手つきなどは年を取ってもなかなか忘れない。子供のころから手話を習ったらどうだろうか。小学校教科のなかに手話を加えたらどうであろうか。手話に関する知識がないので分からないが、日本語と英語の手話で違うところはそう多くはないのではなかろうか。

 固有名詞の表現は難しいとしても、英会話が不得意な日本人は外国へ行ったときに英語をしゃべるよりも、手話のしぐさの方が伝わりやすいであろう。難聴者、ろう者とのコミュニケーションにも役立ち、一石二鳥と思うが。

(上毛新聞 2005年8月30日掲載)