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◎本来の意味を正確に 「男は黙って…」というコマーシャルが、一世を風ふう靡びしたことがありました。昭和三十年生まれの私は「沈黙は金」、何でも思ったことをべらべらしゃべるのは軽薄、言葉数が多くなれば誤解やトラブルを招くから考えて話せ、といった環境で育ちました。しかし、高度成長期を境に、日本人は黙っているから駄目なのだ、もっと自分の意見を主張する必要がある、といった声がにわかに高まり、多弁であることを制する教育は今や力を失いつつあります。 しかしながら、他者の意見に耳を傾けることのできない自己主張は、単なるわがままや身勝手に過ぎず、「ことば」は人と人との潤滑油にもなる半面、時には鋭利な刃物ともなることを子供のときから教える必要があると考えます。 服装や髪型だけではなく、「ことば」もTPO(time place and occasion)に応じた使い分けをすることが大切なのです。それは敬語に限ったことではありません。状況や場面、雰囲気に合った「ことば」を使うのはもちろんのこと、声の大小や強弱、話す態度や姿勢にも気を配る必要があると思われます。 奇声を上げる子供を「うるさい」としかる親の声の方が、かえって「うるさい」場合もあります。もしも「そんなつもりで言ったわけじゃないのに」という事態に陥ったときには、自分を責めたり相手を恨んだりする前に、語調は強すぎなかったか、自分一人いい気になっていなかったか、目が本音を語っていたのでは等々、「ことば」がきちんと伝わらなかった原因を、ぜひ冷静に考えてみてください。 先日、平成十六年度〈国語に関する世論調査〉の結果が文化庁から発表されました。平成七年度から毎年実施している調査ですが、マスコミには話題性が予測される結果を取り上げ、日本人の国語事情に危機ありと報じる傾向があるようです。 今回、特に気になったのは「やばい」の使い方。〈世論調査〉には「とてもすばらしい(良い、おいしい、かっこいい等も含む)という意味で『やばい』と言う」人の割合は、十六―二十歳の男性で75・6%、女性で65・8%に上ると示されていました。「やばい」をマイナスイメージの表現ととらえていた私には、いささか抵抗ある結果。そこで学生たちに「やばい」の使い方を聞いてみたところ、「やばいうまい」「あの人やばい」といった答えが返ってきました。 食物を口に入れたときに発する「やばい」。例えば、私ならそれが腐っていると思うに違いない、けれど彼らはおいしいと感じている…もはや抵抗感よりも、ギブアップ状態になっていました。 かつて若者の使う「ぜんぜん平気」を否定していた大人が、今や平気で「ぜんぜん大丈夫」と言っている状況を重ね合わせ、でも「やばいうまい」が市民権を得るのは無理だなと考え、さらに「ことば」とは状況や場面によって微妙に変化する摩訶(まか)不思議な生き物であると再確認しながらも、やはり本来の意味を正確に伝えていこう、と決意した私でした。 (上毛新聞 2005年8月27日掲載) |