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太田市文化協会企画部長 武正 菊夫さん(太田市石橋町)

【略歴】演出家を志し英国へ留学、ピーター・チーズマンに師事。帰国後、劇団「円」を創設。芸術大学講師の傍ら、高校生ミュージカルに尽力。太田市文化奨励賞。

合併後の市民文化祭


◎自らの思い次の世代へ

 太田市は今春の市町村合併で、二十一万余の人口を擁する都市となり、従来に増して文化の薫りが高く、潤いのある生活空間が求められることになりました。その大きな期待を担って今秋開催されるビッグイベントが「太田市芸術文化フェスティバル2005」です。

 九月から十一月までの三カ月間で、造形部門五部会、芸術部門八部会、文化部門六部会、参加者は計一万五千人に達する巨大な企画となるため、今年も太田市文化協会が市から委託されて調整・運営を行います。

 太田市在住者であれば誰でも参加できる総合文化祭で、広く門戸を開けて自己発表の場を提供するのですが、必ず文化協会の担当委員と連絡を取り、スムーズに運営できるよう相互に協力し合っています。その全体会議が先日、太田市社会教育総合センターで開かれました。

 この会議には旧新田町、尾島町、薮塚本町の関係者も参加して活発な質疑応答があり、合併後の市民文化祭がすべての参加者にとって発展的で新しい運用になるためには、もっと時間をかけて話し合い、作り上げる必要を感じたものです。

 太田の文化は、現市長の提唱する花と音楽の街づくりに触発され、伝統芸能や各地の特色ある催しが活発となり、町全体が生き生きしてきたといわれます。近年は新聞やテレビで行政や市民の取り組みが数多く取り上げられ、今や工業都市太田というくびきが外れて、住労のバランス良い街に生まれ変わった感があります。

 文化の定義は多岐にわたり、優れた芸術家が在住するとか催し物が多いというだけでは評価の基準になりません。生活に根ざすさまざまな満足度のバーが上がり、自主的に参加する魅力がなければ、それは統計上の文化です。

 昨年のフェスティバルで、忘れられない光景に出会いました。それは袖幕内で待機しているときのこと、舞踊発表で踊り終えたばかりの高齢の女性が上気したほおを押さえながら達成感に満ちた表情でじっと舞台を見つめていました。一年間のけいこが凝縮された瞬間で、日常を忘れさせるクリエーティブな空気が感じられてとても感動的でした。

 かつて、本県は「あかぎ国体」を開催するにあたり、文化県宣言を内外に発信しました。骨子となったのはスポーツと芸術を融合させ、「文化」のカテゴリーに同等に配することにより、双方の振興を図ることです。

 ともすれば、わが県特有の気候風土の印象によって作り上げられかねない一般的な評価を払拭し、肉体的精神的充実と感動を文化に求め、合わせて産業経済面に至るまで、誰もが誇りの持てる理想郷づくりに取り組んだのです。あれから四半世紀。今日、各地における文化活動の隆盛を見るにつけ、生活に張り合いを感ずるのは私だけではないでしょう。この思いを次の世代に継承するためにも、行政との連携を深めつつ、さらに斬新で刺激的なイベントの開催を願っています。

(上毛新聞 2005年8月23日掲載)