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◎地元民と行政が一体で 最近、大分の由布院を訪れ、由布院温泉観光協会の方たちとお話をする機会があった。会長の志手淑子さん(「山のホテル夢想園」社長)や副会長の藤林晃司さん(「山荘無量塔」社長)、専務理事の桑野和泉さん(「由布院玉の湯」社長)たちとお会いして、由布院のこれまでの町づくりやこれからの地域づくりについてのお話をいろいろお聞きした。 桑野さんにはお忙しい中、由布院の町中をご案内いただいた。由布院の山間の田園風景の中にあるがままにたたずんでいるような宿や工房を拝見しながら、成功物語を拝聴したというより、むしろ思い悩みの毎日であることに気づかされたのである。 戦後四十年以上の年月をかけつくり上げてきた由布院を守りながら、これからさらにどう良いものにしていけるか、悩みも多そうである。湯布院町役場が観光動向調査を始めた昭和三十七年に由布院を訪れた観光客は年間三十八万人にすぎなかったそうである。今では年間約四百万人近い観光客が訪れる。 由布院といえば今日、日本を代表する温泉地として高いブランド力を持ち、全国から観光客が詰め掛けている。一流旅館ともなれば決して安くない宿泊料金であるが、それでも、いっときの心身のやすらぎや癒やしを求め宿泊客は全国からやって来る。ただ、手塩にかけるように由布院をつくってきた人たちにとって、全国から観光客が殺到することは喜びであるとともに、一方でその結果発生する問題に悩まされてもいるようだ。 たくさんの人(観光客)が集まれば、当然そこにビジネスチャンスも生まれる。押し寄せる観光客を目当てに外から資本も企業家もやってくる。当然である。ところが、そこに問題が生じる。外からビジネスチャンスととらえてやってくる人たちの中には、地元の人たちが何十年とかけてつくり上げてきた「田舎の風情の中にたたずむ温泉宿」として周りの風景の中に自然と溶け込んでいるような情緒を特段何とも思わない人も出てくる。 その結果、人通りの多い道はいわゆる〇〇銀座の様相を呈してくる。由布院に縁もゆかりもない品物を売るお土産屋さんの類たぐいが増えてくることにもなる。土地の利用方法を所有者の自由に任せておくと、その地域となじまない異物的なものができ、それまでの全体風景が損なわれ、風情や情緒も違ったものになってしまうこともある。桑野さんたちも、これまで先代たちがはぐくんできた由布院の風景、情緒が失われかねないことに心を痛めておられた。 ただ心を痛めるだけでなく、売りに出された土地を地元の人たちで共同購入し、異物的利用を何とか防ごうという努力もされているという。ただ、限界のある話である。町並みの維持、地域の風景・風情の維持、そうした地域づくりは個人や有志の力だけではしょせん限界もある。行政の役割が大事である。地元の人たちと行政が一体となった、規制も含めた取り組みがないと、いずれ地域の魅力も失われていくことになりかねない。 (上毛新聞 2005年8月18日掲載) |