視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎特別な使命帯びている 大相撲名古屋場所は朝青龍の五連覇で終わったが、初土俵十一場所目のブルガリア出身の新人力士、琴欧州の予想外の活躍で終盤の土俵が盛り上がった。日本人の有望な新人力士が出てこないので、頑張りに期待したい。 プロの囲碁界も沈滞しているように見えたが、異色の新人が棋界を盛り上げている。京都大学医学部出身でプロ入り四年目の坂井秀至七段(31)である。医学生時代に世界アマ選手権で優勝するなど実力は折り紙付きであったが、今期、難関の「名人リーグ」入りする活躍で目を見張らせている。しかしながら華麗な棋歴に冷水を浴びせるようで申し訳ないが、「国立大学六年間の医学の勉強はどう説明するの?」と聞きたい気もする。 坂井七段の対戦棋譜を載せた新聞に「五十五歳を理由に医学部不合格、群馬大学を提訴」の記事が大きく取り上げられていた。都内の主婦が今春の入学試験で、合格点に達していたのに年齢を理由に不合格になったのは「合格判定権の乱用」と提訴している。 提訴した人は「学力試験で合格点に達しているのであるから、無条件で入学を許可すべき」としている。が、群大は「入学しても、医学部の入学目的である医師になるには、高齢すぎて不適格」と判断したのかもしれない。 医学部に入ったといっても、すべての人が順調に進級、国家試験に合格するわけではないが、水準レベルの医師になるのに何年要するであろうか。まず医学部で六年間、次に研修医として二年間、続いて最低五年程度の修練を要するのではないか。 結局、少なく見積もっても、入学から普通の医師になるまで十三年程度になる。もちろん、医学教育には授業料では賄えない莫大(ばくだい)な公的資金が投入され、解剖のための尊い献体、実習のための患者さんの協力など、もろもろの支援がなされていることも忘れてはいけない。そのような背景も考えると、卒業後二十年程度は国民の健康のために働いてもらわないと困る。そのように勘案すると、入学は遅くとも三十歳ごろまでとするのが妥当であろう。 医学部での最初の講義「医学概論」で病理学の老教授が「医師になることは公共的な側面を持つ、ということを忘れてはいけない」と諭されたことを思い出す。職業を選択するのは自由であり、個人それぞれの思い入れがあると思われるが、医師という職業を選択するということは特別な使命を帯びていると考えるのが自然であろう。 プロ棋士の坂井七段は一度、京大の受験に失敗している。学力試験は通ったが、面接で不合格になった。面接で「医学部に入ったら何をしたいか?」と問われ「囲碁をやりたい」と言って不合格になったらしい。試験官の判断は当然のことと考える。 今、田舎で働く医師がいなくて、市町村は医師集めに四苦八苦している。より長く医療活動をしてくれる有意の人材を求めているのが実情である。このような訴訟沙汰(ざた)は不幸なことと思われる。受験前に医学概論の冊子を勉強してもらうことも有益と考えている。 (上毛新聞 2005年8月2日掲載) |