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◎息長く地道に活動を このところの日本と中国、韓国との関係は良好でない。「靖国」以外にも、今年が戦後六十年という節目にあたることや、日本の国連安全保障理事会常任理事国入り問題、アジア太平洋地域における覇権をめぐる思惑なども絡んでいる。 もっと大きな背景には、冷戦が終わり、国家間の利害関係が錯さく綜そうする複雑な時代の到来という国際環境の変化がある。従って、旧来にも増して草の根レベルの多様な交流や国際理解のための地道な努力が求められる。 そんな時代の要請にかなう草の根レベルの活動が藤岡市にある。群馬アジア映画祭である。会場はみかぼみらい館。映画好きのボランティアが開催する。 そもそものスタートは、仲間同士で鍋を囲んで企画を練るという素朴なもの。ただし、地方ではまだ珍しかった「アジア」に着目した映画祭を企画した点に着想の先駆性と発想のユニークさがあった。 第一回群馬アジア映画祭ではウズベキスタン、インドネシア、インドと、地方では見る機会の少ない国々の映画を上映。以後、アイデアを出し合ってアジアに親近感を持ち、異文化理解を深めてもらえるよう工夫している。 例えば、モンゴル映画の後にはモンゴル茶を無料サービス。観客は最初、けげんな表情で紙コップを手にする。少し塩味のミルクティーを一口飲んだとき、遠い存在であったモンゴルが身近に感じる。 もう一つは、サロン・コンサート。例えば、中国映画の後に胡こ弓きゅう演奏。「ここに泉あり」の後には、群馬交響楽団草創期のメンバーによるミニ演奏会。「ビルマの竪たて琴ごと」の後には、水島上等兵のモデルとなった渋川市在住の中村一雄氏の話を聞く、といった具合である。国際交流基金の方によるアジアと日本の国際交流についての講演も企画された。そんな工夫の積み重ねで、今では映画プラスお茶と音楽などを楽しみに来る常連客も多い、と関係者は話す。 邦画には、地域へのこだわりを感じさせるものが多い。例えば、県内での撮影作品、本県出身俳優の出演作品、同じく出身監督の作品上映などである。麻生八や咫た氏による活弁「国定忠治」の企画もあった。 今年は、韓流ブームのわりには韓国理解がいまひとつとの考えから、韓国映画中心の企画を組んでいる。その中に、吉永小百合主演の「キューポラのある街」が邦画として唯一ある。それは、「地上の楽園」北朝鮮に夢を抱いて帰国し、祖国に裏切られた人々、北朝鮮からの脱北者、邦人拉致などの問題により、現代の映画としてよみがえった作品である。 「冬のソナタ」ブームも大いに結構。しかし、ブームは一過性のものとなりやすい。国際理解は息長く地道に積み上げてこそ本物になる。今年十一回目を迎える群馬アジア映画祭に、草の根レベルの活動の一つの姿が見える。 八月七日は、みかぼみらい館で映画、お茶、韓国舞踊それにチャンゴを楽しみながら、アジア理解にチャレンジすることを薦めたい。 (上毛新聞 2005年7月30日掲載) |