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群馬大学学長 鈴木 守さん(高崎市石原町)

【略歴】千葉大医学部卒。群馬大教授、同大医学部長、副学長を経て現職。国大協、中教審の委員として今後の教員養成の在り方を検討している。

小児と父親の役目


◎遊んで社会性を育てる

 北海道旭川市で病院を開設している小児科医の田下昌明博士執筆による育児・小児教育に関する一般書が今秋、出版(新潮社刊)されることになっている。この七月に田下医師を訪ねたときの一問一答を以下に記してみよう。

 鈴木 先生が以前に書かれた『母の積木』という著書を拝読し、毎日の小児医療の実践から作り上げられた育児・教育論に感銘を受けました。先生が日本家庭教育学会理事であることも知り、旭川に来た機会にお訪ねした次第です。まず、母親から産まれたばかりの新生児が小児になっていく過程での育児・教育について伺わせてください。

 田下 教育における父親の役割を申し述べたい。母親は子供を産むと、直ちに母乳の分泌を促すプロラクチンというホルモンが分泌され、子供に対して本能的な愛情が生じる。母親は出産後、三十分以内に子供に母乳を与えることが大切である。父親は子供の社会性を育てることが役目となる。父親が幼児を軽く上に向かって投げて遊んでやると、まだ物事も言えない幼児でも父親が抱きとめやすいように瞬時に空中で体を整えて、父親の腕の中に入り込むことが分かっている。

 これが社会性の原点である。父親は子供が十二歳になるまでは、寸暇を惜しんで子供と遊んでやることが社会性をはぐくむ上で必要だ。その後、子供の方から「友達との約束があるから」と、父親と遊ぶ約束を辞退するようになったときには、父親は自分の楽しみのためにゴルフに行くのもよいだろう。

 鈴木 今の父親は多忙すぎて、平日には子供とほとんど顔を合わせる機会がない場合もまれではありませんが…。

 田下 父親が仕事で忙しいということは、三歳以下の子供でも必ず理解する。時間が空いたときには自分のために使わず、子供と遊ぶことを心掛けるだけでよい。

 鈴木 ほかに今の父親に伝えることはありますか。

 田下 父親は「大きくなったら、このような仕事をしなさい」と自分の指示を具体的にはっきりと子供に言わなければならない。その上で、子供が別の道を選択するならば、それはそれで意味がある。また「自分たちが年老いたときは、面倒をみてくれよ」と子供を頼りにすることも大切である。子供のときに、親は自分を頼りにしているという自覚が生まれることは、一人の人間が成長する上で必要である。

 鈴木 最後になりますが、羽田空港にほど近い小さな教会の壁に「神なき教育は、知恵ある悪魔を作る」というガリレオ・ガリレイの言った言葉が書き付けてあります。これについて、どのように考えますか。

 田下 私はキリスト教徒ではないが、この言葉は正しいと思う。この言葉の正しさを証明する事例は、われわれの周りに数多くみられるのではないか。

 鈴木 私は自分の子供を顧みることをあまりせずに、今日に至ってしまいました。子供たちや妻に申し訳ない気持ちでおります。家族に対するわびのためにも、現在の立場で与えられた教育問題に真剣に取り組む覚悟です。これからもよろしくお願いいたします。

(上毛新聞 2005年7月28日掲載)