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◎地球考える発信基地に 子供たちが、目を輝かせてオオムラサキの幼虫がエノキの葉っぱを食うところを観察している。これは〈ぐんま昆虫の森〉の一般公開日に、雑木林の中の一本のエノキが観察ポイントの一つになっていた場面である。 昆虫の森の職員と観察解説ボランティアの人たちが協力し合いながら、四季折々の昆虫の生息環境を観察ポイントに設定している。私たちの日常生活では、ほとんど見ることのできない昆虫たちの生き生きとした姿がこの森にはたくさんあり、自然の不思議さや命の尊さも体感できる環境が構成されている。 この昆虫の森は赤城山南ろくの桐生市新里町不二山地区にあり、自然の雑木林を生かした四十八ヘクタールの広大な面積を持つ里山である。 日本各地の里地里山環境の荒廃が進む中で、この不二山地区も同様な憂き目にあった。そんな荒廃した里山にも、オオムラサキやカブトムシなどの昆虫たちは身を潜めて生息してくれた。夏の昆虫たちの活動時期には、昆虫少年たちが、シノなどの生い茂った薄暗い雑木林に潜り込み、昆虫たちを探し求めていた時期があった。 当会も以前から年中行事の一つとして、旧新里村内のオオムラサキ越冬幼虫調査を群馬国蝶ちょうオオムラサキの会の協力を得て、この不二山一帯も行い、初夏には放蝶も合わせ実施してきた。こんなかかわりのあった不二山地区に、県が長い年月をかけて里山の自然環境を最大限に生かして豊かな自然の生態系を再生してきたのである。 その〈ぐんま昆虫の森〉が八月一日に多くの県民の夢と期待を乗せて全面オープンになる。完成の日を迎えて、県の大事業を心から祝福したい。この日を迎えるまでに、旧新里村当局はもちろん、当会や長寿会、地元住民グループなどが強力な支援活動を実施してきた。また、県内各地から数多くのボランティアの人たちの協力と支援もあった。 昆虫の森は県立の施設だが、このように多くの一般市民や県民の善意と愛情が織り込められた新しいタイプの教育施設である。開園後も県民参画型の施設として、NPO(民間非営利団体)やボランティアの人たちが管理運営に組織的に参加していくことになっている。昆虫の森の施設環境は不二山沼、雑木林、桑畑、水田ゾーンの四つに分けられる。昆虫の森の広大で、自然の変化に富んだ里山環境は、自然の中で人間と昆虫たちの共生した暮らしを直接体験できる場でもある。 『沈黙の春』を書いたレイチェル・カーソンの美しいもの、未知なるもの、神秘的なものに目を見はる感性「センス・オブ・ワンダー」をはぐくむために、子供と一緒に自然を探検し、発見の喜びに胸をときめかせる環境が、この昆虫の森には満ちあふれている。この森は地球の現状と未来を考える発信基地として、国内外からも注目されるものと確信している。 (上毛新聞 2005年7月26日掲載) |