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◎再考したい住民の利益 二〇〇二年八月から稼働している住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)には、現在、参加していない自治体が三つ、「希望しない人には住基ネットへの参加を強制しない」という自治体が一つある。さらに、これまで全国の十三の地方裁判所に住民から住基ネットからの離脱などを求めた訴訟が起こされていたが、五月末に二つの地方裁判所でまったく異なった判決が出された。 三十日の金沢地方裁判所は「本人の意思に反した住基ネットへの個人情報や住民票コードの掲載は、憲法十三条に違反する」という判決を出した。 その主な理由は、憲法は人格権としてプライバシー権を保障しており、そのなかには個人が自分に関する情報について自律的に管理する権利(公開や非公開を自分で決め、不当に自分の情報が使われていた場合には訂正や削除させることができる)である「自己情報コントロール権」があるが、住基ネットは、この自己情報コントロール権を侵しているという。 これに対して、三十一日の名古屋地方裁判所は、同種の請求に対して「請求却下」という判決を出した。その主な理由は「住民基本台帳の本人確認情報は以前から誰でも閲覧可能で、秘匿の必要性が必ずしも高くないので、原告らの権利が違法に侵害されたとはいえない」というものである。 これらの判決を機に各メディアに掲載された識者のさまざまな意見を調べてみた。それらの論調は次のようにまとめることができる。 〈賛成派〉 (1)行政の効率化や電子政府の実現のために必要不可欠なもので、(2)電子政府では国民はあらゆる行政手続きをインターネットで行え、公務員を減らすことができる。(3)このためには各行政機関のデータベースを住民票コードで一元的に結合させることが不可欠。 〈反対・慎重派〉 (1)住基ネットは国家による個人情報の一元管理につながる。(2)これは国民総背番号制であり、「住民一人ひとりが行政機関の前で丸裸にされるがごとき状態(金沢地裁判決)」になり、プライバシーが侵害される。(3)一元化された住基ネットがハッカーなどに悪用されると被害が甚大となる。 このように真っ向から対立しているが、いま、あらためて私たちが真に必要とする社会の情報化とは何かという視点から、なぜ、住基ネットについてこのような対立した考えが提起されているのか、いずれの方向が私たち住民の利益になるのかなどについて再考することが課題となっている。 (上毛新聞 2005年7月23日掲載) |