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◎女性重視の農村開発を 世界人口白書では六十一億人のうち、一日一ドル以下で生活している人がおよそ十二億人いて、日本はこのような飢えや貧困に苦しみ、十分な食料や飲み水が得られないような発展途上国への援助を一九五四年から行ってきました。日本のODA(政府開発援助)予算は九七年から年々削減されていますが、JICA(国際協力機構)等により、世界各国の経済、社会の発展に役立てるための資金や技術協力を行ってきています。 私も昨年八月、メキシコ合衆国の最南端、グアテマラ国境沿いのチアパス州にJICA短期専門家として一カ月間派遣され、日本における生活改善普及活動の歴史を紹介してきました。この地域はメキシコでも最も貧困な州で、農業が基幹産業だったが、九〇年代以降、主要農産物であるトウモロコシとコーヒーの価格暴落により、大多数の零細農家に経済的な打撃を与えました。 そのため、男性は北部国境地帯やアメリカへ出稼ぎに行ってしまい、村に残された女性たちが子供や家、農業やコミュニティーを守っているのでした。 JICAはメキシコ政府と共同で農村開発プロジェクトの一環として「農村女性組織の育成と活動支援」を実施しています。農村女性に焦点を当てた農村開発プロジェクトはJICAとしても初めての試みであるため、政府関係者や地域リーダーの理解を得るのに、日本における六十年近い生活改善普及活動の歴史と具体的な女性組織の活動事例が必要となったのでした。 日本は戦後の食料不足の情勢下、四八年に農業改良助長法が施行され、農業と生活の改良普及員により、食料増産、農業振興と農村生活の改善などの取り組みが行われました。農業経営は家族労働であり、生産と生活の場が同じであるため農業経営と家庭経営のバランスが重要で、農家経済の向上を図るには双方のレベルアップが必須でした。 チアパス州では、青年海外協力員により家事労働の軽減や省エネルギー対策として「改良かまど」が設置されました。また、十分な栄養摂取や家計費軽減などを目的として「自給菜園」をモデル展示していました。国からの経済支援がほとんどない今日では、ただ待っているだけでは何も生活は変わらないのです。自分自身が問題意識を持ち、何か一つでもよいから課題に取り組むことで生活を変えていく手法、いわゆる「課題解決手法」が始まったところです。 農村にある資源や人材、技術を生かした経済活動により、女性の力で収入を得て生活を変えられることを自ら経験してもらうとともに、その実践モデルを作ろうとしているのです。 これからの途上国支援はハードよりソフトで、人材育成が重要であることは多くの専門家が述べていますが、「課題解決を実践する」集団やリーダーを育てていただきたいのです。そのためには、農村女性や生活者視点を重視した農村開発普及員(海外協力隊員)の活動が期待されます。地域住民の自助努力によって、おのおのが経済力をつけるとともに地域活性化を図り、他地域への波及効果も考えたコーディネーターが必要なのです。 (上毛新聞 2005年6月29日掲載) |