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◎今こそ自給率の向上を 緑豊かな六月の田園風景。そんなのどかさの中、雑草の生い茂った田んぼが目にとまる。生産調整から生まれた休耕田である。美田を遊休農地にしておくのも心苦しいが、他の作物への転作も考えられないのが実情である。 農業従事者の高齢化に伴い、担い手不足も原因の一つであるが、外国産輸入野菜の急増により、何を作ってもコスト割れとなることが大きな要因である。安価な外国産輸入野菜と水稲の生産調整が、わが国の食料自給率の低下につながっていると考えられる。 生産調整により直接影響を受けるのが、中山間地域の農業である。コストや転作を考えたとき、遊休農地が増えるのは当然である。中山間地の水田は天然ダムとしての役割を担い、防災ダムの数倍の役割を果たしてきたといわれる。水災害を防ぐことや、国土の保全を考えたとき、中山間地農業の育成に力を入れるべきである。 遊休農地には課税をしてはどうかという話題も出ているが、とんでもないことである。世界の先進国は、食糧の安全保障と自給率の高揚という観点から、農業に対し莫ばく大だいな補助金や助成を行っているのが実情である。 二十年後、世界の食糧事情は大幅な不足の時代がやって来ると予測されている。原因は水にあり、限られた水資源は世界の人口を賄うだけの余力はない、ともいわれている。世界中から安価な食料の輸入に頼っているが、いつ天災や異常気象によりストップするかもしれない。 オイルショックで右往左往した日本経済の実例がある。食糧難となると、混乱の度合いは計り知れない。今こそ自給率の向上に取り組まなくてはならないと思う。 昭和二十六年、国土の乱開発防止、優良農地の確保、食糧の安定的増産をスローガンに、農業委員会制度が設置されて今年で五十五年になる。農地の有効利用、担い手の育成、農地の見張り番として、その成果は高く評価されてきた。 国会での議論の中で農業構造改善事業の廃止論や、農業委員会制度の縮少論をとなえる人もいる。これらは農業、農村基本法を無視したものであり、国の責務を放棄したことになると言わざるを得ない。 日本の農業は、豊作祈願を神への信仰に求めた歴史がある。正月のどんどん焼きに始まり、虫除(よ)け、水請い、風水害除けなど、一年を通じて信仰とともに農作業が進められてきた。一束の野菜、一粒の米でも増収しようと田畑を守ってきた。その美田が崩壊の危機にある。中山間地農業の振興は国土の保全につながり、優良農地の遊休化は国を滅ぼす元凶となる。 来月には農業委員の統一選挙が行われる。新しい農業委員には、農業のご意見番としての活動を期待したい。 (上毛新聞 2005年6月17日掲載) |