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◎国土を守る第一歩に 四月中旬。小学生親子を募って「里山天ぷらハイキング」を催した。春の野草を摘み摘み、里山を歩き、その場で天ぷらに揚げて食べようという趣向である。 丘陵を点綴(てんてい)するヤマザクラの花びらが、切り紙細工のように降りかかる中で、ノコンギク、ツリガネニンジン、オケラ、クズ等々を摘んでの揚げたての天ぷらは香り高く、地味にあふれ、すこぶる美味であった。 高山や深山の自然を遠く眺めるのではなく、手に取り、身をもって感じることのできる二次自然としての、美しさと豊かさこそが里山の魅力である。 先人たちの努力によって、築き上げられてきた里山の風景は、まさに「日本の原風景」である。この原風景を次世代に継承することは、日本の風土を未来に語り継ぐことに通じる。 かつて里山は、市街地でもなく「特徴ある自然」でもないというところから、環境行政の政策対象として、さほど重視されていなかった。学術的、世界遺産的な自然保護に施策が偏り、近郊緑地(里山)への保護、保全施策は、ほとんど顧みられていなかった。 一九九〇年に入り、多くの自治体で環境基本法が制定されるようになった。九七年制定の「県環境基本計画」では全県を山地地域、里地(里山)地域、平地地域、水辺地域に区分し、里地地域への配慮事項として「地域の特性を生かした植樹や植栽に努めること、環境保全型農業の推進…豊かな自然とそこに住む人々との共生を図り、魅力ある地域形成に努めること」などが挙げられている。 さらに、九九年に農業基本法が廃止され、「食料・農業・農村基本法」が制定された。その中で里地(里山)について一定の政策的方向が定められ、「国土の保全・水源のかん養・自然環境の保全・良好な景観の形成・文化の伝承等」の「多面的機能」は「将来にわたって、適切かつ充分に発揮されなければならない」とある(3条)。一応、行政の里山への政策関心が拡大認識されてきたのである。 しかし、現状はどうなのであろうか。高崎市観音山丘陵の一角に、約百二十億円という予算を投じ造成された県立公園は、だだっ広い芝生広場が広がり、隅にバーベキュー広場、クラフト工房、子供の園地が申し訳程度にあるだけだ。尾根を削り谷を埋め、丘の中にあの芝生広場は本当に必要だったのだろうか。 今、市民によって立ち上げられたNPO法人KFP友の会が管理運営を委託され、公園の存在意識のために努力を強いられている。 里山を守るということは、国土を守る第一歩である。「日本の原風景」の再生・保全は、ひとえに行政の政策手腕に掛かっている。 「里山天ぷらハイキング」の帰り道。小学三年生の男の子が、歩きながら、こんなことを言った。「いろんな草や木を、いろんな虫や動物やそして僕たちが食べる。いろんな草や木は、みんなの命のお母さんだ」 (上毛新聞 2005年6月14日掲載) |