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高崎経済大学非常勤講師 桂川 孝子さん(高崎市岩押町)

【略歴】高崎市出身。89年上智大文学研究科教育学専攻博士課程前期修了。松下政経塾卒塾。住友生命総合研究所主任研究員を経て02年退職。共著「地域介護力」など。

いまの消費志向


◎物を守り大切にしたい

 環境に配慮した生活を心掛けようという話題になると、「無理しないでできる省エネ」「今の暮らし方を変えない範囲でできることは何か」という議論に行き着くことが多い。誰もが受け入れやすいやり方でないと、行動に結びつかないという現実を反映しているためだ。

 しかし、いまの消費志向の生活を変えずに環境問題に対処できるとは思えない。現在、世界人口の二割が富の86%を握り、資源の80%を消費している。この割合は十年前と変わらない。「経済発展は人類の幸福や豊かな生活のために不可欠だ」との価値観で世界中が経済発展を目指してきた。現実は、国家間の貧富の差が広がった。中国やインドの一部の人々は成功を収めたが、途上国の大多数の人々の生活は向上していない。

 環境面からも、すべての人々が経済発展の恩恵に浴することはできない。牛肉を例にとろう。米国人は一人当たり年四十五キロ、中国人は四キロの牛肉を消費している。人口十三億の中国人が米国人と同じ量の牛肉を食べるためには、米国で収穫するすべての穀物を牛の飼料に回さねばならない計算だ。また、十年後には中国の自動車販売台数は五倍の一億五千万台に達すると予想される。これに伴い石油や鉄鉱石の需要が拡大するが、地球上には拡大する需要に対応する資源はなく、自然界に放出される汚染物質の浄化作用も追いつかない。

 一方で、世界人口の四分の三に相当する十一億二千万世帯がテレビを所有している。テレビコマーシャルは消費志向のライフスタイルをもたらす。他人と同じ物が欲しくなり、同じことをしたくなる。「持てない、できない」ことが不満となる。私たちは、欲しい物を欲しいだけ得ることが幸せなことかを考える間もなく消費する生活を送っている。世界の宣伝・広告への支出額は二〇〇二年で四千四百四十億ドル。日本は世界第二位の広告市場を持つ。

 私たちはテレビ、新聞、雑誌やインターネットなど日常生活に浸透した広告にさらされている。子供をターゲットとした広告にも力が注がれている。幼いころから消費志向を育てることによって、将来の顧客として取り込むためだ。生活の満足感や幸福感は他人との強いきずな、生活を自己管理できること、健康、充実した仕事と関係すると研究者は指摘している。

 消費型経済からは幸福感や満足感を得ることはできない。消費には習慣性があるため贅沢(ぜいたく)品はすぐ必需品になり、新しい贅沢品を見つけなければならなくなる。経済発展を遂げても、消費の追求には際限がない。このような暮らし方は見直すべきだ。使い捨てや大量消費は、物の価値をおとしめる。愛着や価値のない物が家の中に山積しても、そこから満足感は得られない。

 物を大切に使い切ることは、物の価値を最大限に高める行為だ。道具や物を上手に使い回すことは生活の知恵であり、代々、受け継いでいくことは家の伝統として尊重されよう。私たちに満足感を与えてくれるのは、消費ではなく、守り大切にすることであると思う。

(上毛新聞 2005年5月30日掲載)