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ペンション経営・山岳ガイド 宮崎 勉さん(片品村東小川)

【略歴】前橋商卒。75年のダウラギリI峰登頂を皮切りに、サガルマータなど8000メートル峰中心の高所登山を続けている。群馬ミヤマ山岳会会長。

高山病への対応


◎前兆とらえ酸素を補給

 三千メートルの山に登ったとき、高山病にかかり頭痛や吐き気などに苦しんだという話を聞きます。確かに、三千メートルでは空気中の酸素濃度は70%に落ち、ゼロメートルの環境で生まれ育った者には低酸素障害が現われても不思議ではありません。では、誰もがこの影響を受けるかというと、この高さではまだほとんどの人が障害を受けずに済みます。

 障害が出た人は「なぜ自分だけが」と思い、落ち込んでしまいがちです。しかし、高度が富士山(三、七七六メートル)級になりますと、かなりの人が頭痛、吐き気、手足の倦けん怠たい感をともなった症状が現れ、影響を受けます。

 さらに四千メートル以上の高さになると、酸素濃度は60%、50%と減り、その差は大きくなり、障害は高山病へと進行していきます。では、同じ条件の中で登山をしたにもかかわらず、どうして個人差ができるかというと、幾つかの要因が考えられます。

 まず、体力差からくる歩行速度の関係と呼吸の仕方の違い等があります。空気中の酸素は誰でも平等にあり、いかに効率よく十分に取り入れられるかで、個人差は出てしまいます。体力に差があるにもかかわらず、同じ速度で歩けば呼吸は浅くなり、酸素の摂取量は落ち込みます。さらに、高度が増し、空気中の酸素が少なくなればなるほど、この差は大きくなります。

 人間が持つ順応力は、地球上で最も高いエベレスト(八、八四八メートル)さえ、酸素を補助せずに登頂に成功しています。この高さでの酸素濃度は、30%を切る状況です。もちろん、これらの行動にはいろいろな条件をクリアし、高度の順応を可能にした者のみが成し得た登山ですが、人間が持つ順応力の証明でもあります。

 では、どう順応力を引き出し、高山病に対応したらよいのか…。

 高山病には代表的なものとして、肺や脳に水がたまる肺水腫や脳浮腫があります。肺に水がたまりだすと、ゴボゴボと音がし、たんに血が混じって数日で死に至るという非常に危険な病気です。

 しかし、高山病にはいくつもの症状が出ます。まず、手、足、顔のむくみ、足が重く速度が遅くなる。さらに頭痛や吐き気、食欲不振等も伴ってきます。これらの症状は酸素不足ゆえに起こることが多く、酸素を補給すればほとんど解決します。

 まず、深く肺までいきわたるように呼吸を重ね、歩行速度を落とします(呼吸に歩行を合わせる)。また、体力にまかせて登ることをしないで、留まることも重要です。高山病に至るまでには幾つもの前兆がありますが、このシグナルを的確にとらえ、場面、場面で対処すれば、登山は安全で楽しいものです。ぜひ、知っておいてほしい知識の一つです。

(上毛新聞 2005年5月1日掲載)