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高崎里山の会代表 瀧田 吉一さん(高崎市石原町)

【略歴】東京生まれ。61年高崎市に移り住む。私塾「草の実会」主宰。市緑化審議会委員。高崎緑化ハンドブック「榎の精の話」「赤松の精の話」など執筆。

地球環境の行方


◎木質資源が鍵を握る

 日本の森林は、一ヘクタールで一年間におよそ十五―三十トンの炭酸ガスを吸収し、十一―二十二トンの酸素を放出している。炭酸ガスの吸収量と酸素の放出量が、それぞれ倍という概算量は、森林の環境条件による。土地の栄養条件、土壌条件、その地方の気象条件によって左右される。

 平均的森林の植物の光合成による化学反応量を計算してみると、一キロの植物体を生成するために、約一・六キロの炭酸ガスを吸収し、およそ一・二キロの酸素を放出する。この量は、年間一ヘクタールの森林で、約四十―八十人の人間が呼吸に必要な酸素を供給していることになる。しかし、地球上の酸素は、大気中におよそ21%も含まれている。仮に森林の炭酸ガス浄化機能が低下したとしても、大気中の酸素が、一気に失われてしまうことはない。

 森林保護・森林育成の真の必要性は、植物自体が炭酸ガスを吸収し、炭素として固定貯蔵して炭酸ガスが大気に戻るのを防ぐことにある。

 炭酸ガスは、大気中に約0・03%しか含まれていない。だが、このことは太陽熱によって暖められた地球からの放熱を遮断して、温室効果による地球温度の調節に重要な機能を果たしている。しかし、炭酸ガス濃度が増加し、温暖化現象が進めば、当然のことながら地球の温度が上昇し、地球全体の気象に変化が起きる。日本で例えれば、短粒米は北海道・東北、関東地方以西では長粒米しか作れなくなる。さらに赤道付近の砂漠化が急速に進む。

 大気中の炭酸ガス濃度の上昇は、産業革命以来続いている。利便性と経済優先の近代社会が、科学万能をうたい、石炭・石油等の化石燃料に依存し続けてきた結果といえる。このままでは、今世紀半ばには、炭酸ガス濃度は0・06%程度にまで達するといわれている。

 森林は先述のごとく、木の幹(植物体)という巨大な炭素の貯蔵庫を持っている。光合成によって炭酸ガスを炭素という有機物に変えて蓄える。しかし、森林が炭酸ガスを固定化して貯蔵したとしても、燃料として使用すれば当然、炭酸ガスが放出される。また枯損した植物のリター(遺体)が土壌生物等によって分解され、ここでも炭酸ガスが大気中に戻っていく。が、このガスは、再び植物の光合成によって森林に取り込まれ貯蔵される。本来は、この仕組みによって大気中の炭酸ガス濃度が調節され、地球環境が保たれてきたのだ。

 植物資源のエネルギー利用には大きな利点がある。森林→燃料→炭酸ガス→光合成といった森林の成長・分解の過程で炭素の量が不変であるということだ。さらに、燃材補給源の雑木林は、伐採後切り株からの萌芽(ほうが)によって、コスト不要の更新が可能である。

 早急に、現代社会に適応した木質資源の利用技術の研究と確立が、他のエネルギー開発技術とともに重要な課題ではなかろうか。

 京都議定書の意義は大きい。もはや時間は少ない。人間が手にした科学は、知性という舵かじによって、地球の環境をどのような方向に向かわせるのか。今、私たちはその岐路にいる。

(上毛新聞 2005年4月24日掲載)