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板倉町民俗研究会会長 根岸 昭雄さん(板倉町板倉)

【略歴】板倉高卒。農業に従事。板倉町議5期。元町議会議長。板倉町民俗研究会会長として伝統文化や民具などの調査、保存活動。著書に「庶民信仰をたずねて」。

ローマ法王の死


◎平和の願い受け継ごう

 ヨハネ・パウロ二世が、二十六年余にわたるローマ法王の座に終わりを告げた。在位中の法王は「空飛ぶ聖座」といわれるほど、世界の平和を願って法王外交を展開。宗派を超えた情熱的な活動が高く評価されてきた。そのため、法王の死去は世界中で惜しまれている。

 世界は今、戦争や内戦、テロで苦しんでいる。領土問題やイデオロギーの対立での争いならいざしらず、宗教間の争いがあまりにも多く、自分の信仰する宗派以外は絶対に認めない、という排他的観念が争いの起因になっているようだ。

 ヨハネ・パウロ二世は、人類が平和に生活できるよう、世界の宗教人の融和を図ろうと努力してきた。また、世界中の紛争の場面においても精力的に動いてきたことに驚きを禁じ得ない。戦争やテロや内戦がいかに無益なことか、われわれも痛いほど体験済みである。

 昨年の暮れにカンボジアを訪れる機会があった。農村各地を回り、悲惨な農民生活を目にした。内戦の傷跡は貧困だけを残し、世界の最貧困国にしてしまった。

 アンコールワットの遺跡が物語るように、十三世紀には世界一の仏教国として栄えていたのに、度重なる内戦で文化も経済も足踏みしてしまったのである。

 村の再建は、仏教寺院の復興と真の仏教思想の教育を中心にして進めていくという村民の話が、せめてもの救いだった。

 ここで、日本に目を向けてみると、日本人の宗教観は世界に類をみない。と同時に、合理性にたけていると思う。仏教と神道がうまく融合し、信じることすべてを受け入れ、しかも生活の一部にしていることでも分かる。

 どこの家庭でも仏壇を備え、朝晩、先祖への供養を欠かさない。さりとて神棚を祭り、拝礼も怠りない。村々には幾多の神社を祭り、自分たちに都合のいい信仰を取り入れている。水害に悩まされるときには水神宮に、豊作祈願は稲荷神社に、身体の健康祈願、除災、招福など、それぞれの神に祈願する。便利な宗教観である。

 伝統的宗教の中にも、オウム真理教のような極悪非道な新興宗教や、ハレンチ宗教など悪徳宗教集団の存在も見逃してはならない。宗教法人として認められると、なかなか内情や活動状況を把握することは困難のようである。

 信教の自由を隠れみのに、婦女子など弱者につけ込んで入信させ、非道な行いをすることは絶対に許してはならない。

 キリストも、アラーも、釈しゃ迦かも、世界の神々は人類の平和と安あん堵どを願って生まれてきたに違いない。ヨハネ・パウロ二世が世界に発信した平和の願いを、人類共通の課題として背負っていくべきである。

 法王の死は、世界の宗教観を再認識する機会となった。

(上毛新聞 2005年4月19日掲載)