視点 オピニオン21
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弁護士 富岡 恵美子さん(高崎市上和田町)

【略歴】中央大卒。71年に弁護士開業。01年まで群馬大講師。現在、県女性会館女性相談支援室長、日本ジェンダー学会理事。女性の人権問題などに取り組む。

DVを防止するために


◎加害夫は十分な償いを

 DV(ドメスティック・バイオレンス=夫・恋人からの暴力)は、長年「たかが夫婦げんか」と軽視され、放置されてきた。DV法は、このDVを「重大な人権侵害」と明言し、DV防止と被害者保護を図った。DV法により、被害者保護は前進したが、まだまだ問題がいっぱいある。

 事例1 結婚十数年。妻は夫の暴力に苦しみながら、子供を育て、自宅で美容室も経営。「いつ夫がキレるか」とハラハラしながらの生活で、疲れ果てている。でも、「ひどいけがをする前に、避難したら」と勧められても、決心できない。子供は「絶対転校しない」って言うし、本人もこの美容室やなじみ客などと離れられない。暴力は怖いけど、なぜ妻や子供が何もかも捨てて、避難しなければならないのか。悪いのは、夫なのに。

 事例2 妻は結婚以来、夫からいつも命令され、服従してきた。でも、いくら逆らわないよう努めても、夫の暴力はエスカレートするばかり。とうとう、子供を連れて避難、離婚しようとした。でも、夫はしつこく復縁を迫り、離婚に応じない。調停や裁判でも、DVの苦しみは分かってくれない。妻は疲れきって、離婚できるだけでいい、ということになった。こうして、十年余の結婚生活は慰謝料ゼロ、財産分与ゼロで終わった。

 事例3 夫の暴力で、二十年の結婚生活は破たんした。裁判しても、慰謝料はわずか百五十万円、財産分与ゼロだった。

 これでは、妻は救われない。いくら避難所ができてDVから逃れても、その後の住居や仕事探しは、とても難しい。その上、慰謝料や財産分与さえあてにできないありさまなのだ。その半面、DV夫のほとんどは、妻にけがをさせても処罰されることもなく、別居、離婚になっても、わずかな慰謝料・財産分与で済む。自分のせいで結婚生活を駄目にしても、子供までDVに巻き込んで苦しめても、そうなのだ。しかも、夫は離婚後も従来通りの収入を得、経済的に苦しむのは妻子の側なのだ。

 私は思い出す。カナダ駐在の日本総領事が、妻への暴力で逮捕された事件を。逮捕のきっかけは、妻を治療した病院の通報だった。総領事は暴力を振るったことを認め、「単なる夫婦げんかを暴力と見るかどうかは、日本とカナダの文化の違い。大騒ぎするようなことではない」と述べた。暴力を許さないカナダと、暴力に寛大で女性の自立が難しい日本。総領事の暴力は、日本だったら「通報」も「逮捕」もなく、単なる夫婦げんかで済んだに違いない。

 DV防止の第一歩は、何か。まず、加害夫は被害妻に十分な慰謝料と財産分与を支払い、償うこと。財産分与は、夫婦財産の公平な清算はもちろん、離婚までの妻子の生活費と、離婚後の一定期間の扶養も含めなければならない。そうしてこそ、夫と妻の稼動能力の格差を縮小し、被害妻の生活再建もできよう。加害夫の償いなくして、DVの再発防止はないのである。

(上毛新聞 2005年4月17日掲載)