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日本釣振興会県支部長 秋本 國勝さん(高崎市上中居町)

【略歴】高崎商卒。全日本フライキャスティング大会チャンピオン。県内水面漁場管理委員、県「瀬と淵を取り戻す」検討委員。フィッシングショップ・アライ経営。

アユの冷水病


◎一丸となって解決を

 ご存じの通り、本県の県魚はアユである。アユは香魚とも呼ばれ、新鮮なスイカのにおいがします。姿形が良く、食べてもおいしい。特にワタはほろ苦く、大人の味がします。釣り味は魚の見かけより豪快で、釣り人をとりこにしています。多くの魚の中で、これだけ四拍子も五拍子もそろった魚はほかにいないでしょう。しかし、釣り人の人気ナンバーワンのアユも、このところ十年近くあまり釣れません。その主な原因はアユの「冷水病」です。

 アユの冷水病菌はアユにしかかかりませんが、感染力は強く、菌を持ったアユや、菌のついた漁具をその川に持ち込めば、二週間で発病します。その後、アユが全滅に近い状態になるまで、たいして日を要しません。昨年の本県におけるアユ漁獲高は、一昨年よりやや良いものの、全盛期に比べれば足元にも及びません。このアユの不漁は全国的なもので、事態は深刻です。経済損失まで考えたとき、その損失総額は計り知れないものがあります。

 こんな実態を毎年見続けてきたアユ釣り師の中で、何とかしようと立ち上がった男たちがいます。それは「日本一の鮎(あゆ)を取り戻す会」の面々です。会員の中には一般のアユ釣り師だけでなく、漁協組合員の人や、アユの中間育成業者の人もいます。彼らは、以前の群馬のアユの素晴らしさを知っています。そして、群馬のアユ釣りが良ければ、他県からどれくらいのアユ釣り師が集まるか、また、その人たちがどのくらいのお金を本県に落としていってくれるのかなどを知っています。

 例えば、他県と比べて本県が特に良いとすれば、少なくとも一日平均、他県から本県に千人は来るでしょう。一人が群馬で一万円を使えば、一千万円になります。それが百二十日とすれば、十二億円にもなります。少なくみても、本県に毎年十二億円が落とされるわけです。漁業組合、おとり店、釣具店、コンビニ、ガソリンスタンド、食堂、旅館、民宿、土産物、自動販売機などを合わせると、かなりの経済効果が見込めます。

 さらに、アユがたくさん釣れれば、県内在住の釣り人もアユ釣りに行く機会が増え、アユ釣りによる全体の経済効果は、その数倍にはなるでしょう。現在では「日本一の鮎を取り戻す会」の目的と行動が小寺弘之知事にも認められ、水産行政に有益な情報の提供を主としてバックアップしています。官民が一体となったとき、不可能なことはないと思えるのが普通ですが、相手は冷水病という病原菌です。そう簡単には解決しません。

 幸いに本県は海なし県で、水産試験場や水産行政に内水面に関する優秀な人材がたくさんいます。時間はかかりますが、良くなるでしょう。今日の本県のアユ状況は、マッチからろうそくに火がついたばかり。一日も早く冷水病を解決するには、ろうそくの火を炎の渦にしなければなりません。それには、どうしてもお金もかかりますし、漁協、釣り人、研究者、行政が一丸となって取り組まなければ、日本一のアユを取り戻すことは、風前のともしびになってしまうかもしれません。

(上毛新聞 2005年3月29日掲載)