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弁護士 神山 美智子さん(東京都港区)

【略歴】伊勢崎市生まれ。伊勢崎女子高、中央大法学部卒。65年に東京弁護士会に登録。03年4月から「食の安全監視市民委員会」代表。

忘れるな薬害ヤコブ病


◎変異型CJDで思う

 先月、ついにわが国でも、牛海綿状脳症(BSE)由来の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)で男性が死亡しました。

 CJDには原因不明で発病するものや、家族性に発病するものなどがあり、BSEにかかった牛の肉(おそらく脳)を食べて発病するものを「変異型」と呼んでいます。この男性はイギリスに滞在していた経歴があり、当時イギリスでは変異型CJD患者が多く出ていたので、イギリスで感染したものだろうとされています。しかし、滞在が短期であるのになぜ感染したのか、行動を追跡調査する必要があるともいわれています。

 このニュースに関連して、薬害ヤコブ病に触れた新聞もありましたが、あまりよく分かって書いているものだとは思えませんでした。

 わが国では、変異型CJDよりはるかに重大な被害をもたらした、ヒト乾燥硬膜移植による、いわゆる薬害ヤコブ病があります。原因は、ドイツの会社から輸入したヒト乾燥硬膜ライオデュラが異常プリオンに汚染されていたことでした。交通事故などで脳に傷害を受けた場合など、開頭手術をして硬膜移植というものが行われるようです。

 ドイツのB・ブラウン社という会社が、亡くなった人の硬膜から乾燥硬膜を製造する際に、おかしな施設から入手した硬膜を横流ししたという噂うわさがあり、この中におそらくヤコブ病患者の硬膜が混じっていたのではないか、また同じ袋に多くの製品を入れて保管していたため、異常プリオンがほかの乾燥硬膜に感染したのではないかといわれています。

 アメリカ政府は一九八七年、すでにブラウン社の乾燥硬膜輸入を禁止し、汚染された可能性のある乾燥硬膜を破棄させました。WHO(世界保健機関)も九七年、使用中止を勧告しています。

 日本では、約百人の患者が発生していますが、BSE関連の特別調査が行われるまで、こうした薬害があることに医師も政府も気が付かなかったのです。薬害ヤコブ病患者数は世界一です。この同じ時期に、薬害エイズ事件が進行していました。

 薬害ヤコブ病も薬害エイズ同様、裁判になり、二〇〇三年三月、原告と国および製造会社との間で和解が成立し、厚生労働大臣は「過去における国の対応に不十分な点があり、被害者の方々が物心両面にわたって甚大な被害を被り、極めて深刻な状況におかれるに至ったことにつき、深く反省し衷心よりお詫わびする」という談話を発表しました。

 この病気はBSEの牛と同様、脳がスポンジ状に変化して急速に痴呆が進み、最後には自分で身体を動かしたり話をすることもできなくなる悲惨なものです。

 わが国は数々の薬害や公害、あるいはカネミ油症のような食品公害を繰り返し起こしてきました。被害者の多くは亡くなったり、苦しい生活を強いられたりしています。しかし悲しいことに、そうした過去の歴史がすぐに忘れ去られ、風化していきます。変異型CJDで死亡した男性もすぐに忘れられ、先月十一日のように一日だけの牛丼に人が群がり、テレビも群がるという、何とも情けない、やるせない社会ではないでしょうか。

(上毛新聞 2005年3月21日掲載)