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◎ありのままで良い関係 日本で「グリーン・ツーリズム」という言葉を公式に使ったのは農水省で、一九九二年に「緑豊かな農山漁村においてその自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動」と紹介しています。ヨーロッパでは七〇年代以降、農業政策として都市生活者が緑豊かな農村で休暇を過ごし、人間性を取り戻す活動が各国に普及されていきました。 私も十二年前、ヨーロッパにおける農産加工、直売所、もぎ取り農園、農家民宿を含むグリーン・ツーリズムの調査研究のため、ドイツ、イギリス、イタリアを訪れたことがありますが、ドイツでは農家民宿に二週間から一カ月単位で滞在するのが普通で、自炊でも農家に食事を用意してもらうのも自由です。 また、ワインやチーズ、パンも農家の手作りで、週末には近隣の町から日帰り客を受け入れたり、手作りパンを週二日宅配するなどで、農家経済に役立てていました。また、都市生活者は、子供たちをテーマパークに連れて行くのではなく、小さいときから大自然に触れさせ、その中で食育を実践しているのです。 私の家では父の代から、時季の果物はその産地へ出かけ、直接農家から譲っていただいてきました。七月には鬼石町のプラム、八月には新潟県南魚沼市のスイカ、九月に埼玉県神川町のナシ、十月には長野県高山村の巨峰、十一月下旬にもう一度、高山村のK農家へリンゴを求めて出かけています。 K農家とは三十年ものお付き合いが続き、今では私に引き継がれています。その地域の空気に触れ、会話を楽しみ、旬を味わうことは格別です。また、旅先でおいしい食べ物との出合いと温かい人間関係ができると、再び訪れたいと思うし、もし行けなければ、「そこにしかない味」を送っていただいています。 九六年から万場町、中里村、上野村の農家の方が主体となって「グリーン・ツーリズム」の研究を始め、九八年には十九人で「奥多野グリーンツーリズム研究会」を発足させ、自然環境、文化、郷土食、伝統技術を生かし、「ありのままの奥多野」を感じてもらえるような都市農村交流活動を推進しています。 ここでは、日帰り型と一泊程度の滞在型で、そばオーナー制、ジャガイモとトウモロコシ収穫体験、ハーブ摘みとオイル作り、ドライフラワーリースづくり、鍾乳洞探検など、たくさんの受け入れメニューも整っています。 長期休暇の取れない日本では、せめて週末だけでも癒やし空間を求めて、奥多野のような農山村を訪れ、豊かな自然環境と心温かい住民との触れ合いにどっぷり漬かり、心身をリフレッシュしてみてはいかがでしょうか。訪れる方は、お金さえ出せば「もてなしてもらうのが当たり前」ではなく、その環境や文化、農産物などを「分けていただく」という姿勢で臨むと、より強い人間関係と「癒やし」が実感できると思います。 農村で何もしないで、のんびり過ごすのもよいものです。農村の人も、自分の地域の魅力を独り占めせず、これからは外に向かって語り、都市の人たちとの共有が必要ではないでしょうか。過剰なサービスやアピールも必要ないし、相互が無理せず、「ありのまま」の方が、良い関係を長続きさせることでしょう。 (上毛新聞 2005年3月20日掲載) |