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◎産業連鎖で裾野広げる 本県では富岡製糸場を世界遺産に登録する運動が進められているが、わが国初の本格的近代建築としても、産業革命の先駆者として日本の近代化に貢献した業績からも、世界遺産にふさわしいと評価したからだろう。しかし、繊維にかかわる者にとって、この工場はまさに日本の近代繊維産業のルーツであり、その業績を繊維業界の視点からも再評価しておく必要があるのではないだろうか。 繊維産業というと、最近は斜陽産業とか過去の産業のイメージが強いが、実は明治初期から昭和四十年初頭までの百年間、繊維はずっと輸出のトップの座を占めてきたわが国の基幹産業であり、経済大国日本の基礎を築いた最高の功労者なのだが、その原点が富岡製糸場だったからである。 しかし、功績はそればかりではない。当初は先達としての試練はあったものの、この工場を起点とした産業革命の波はやがて繊維機械や繊維技術を一層昇華させ、ついに昭和初期には世界一の繊維輸出国にまでのし上った。が、その過程ではぐくまれた技術は、そのまま今日の先端産業に引き継がれていることを忘れてはならないだろう。現在の先端産業とされる自動車産業、IT(情報技術)産業、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、宇宙航空機産業などは、いずれも繊維産業から派生した産業といっても過言ではないからである。 例えば自動車分野では、トヨタも日産もスズキも、前身は豊田自動織機や日産プリンス織機、鈴木織機といった繊維機械メーカーだったし、これらの機械を現場で稼働させてきた技術は、そのまま全国各地の自動車部品製造に引き継がれているのを見れば、自動車産業は紛れもなく繊維産業から生まれたことが分かるだろう。 また、織物の柄を「0」と「1」で織り出すジャカード織機の構造はそのままコンピューターの原理であり、事実、初期のコンピューターはジャカード機と全く同じ形状の穴の空いた板紙を使っていたことは記憶に新しいところだ。 さらに養蚕技術は最先端のバイオ技術に引き継がれ、近ごろではクモからシルクを採る技術や、遺伝子組み換え、化粧品や食品への応用など新たな分野を切り開きつつある。 また、繊維に染色はつきものだが、繊維産業は高度な化学技術である染料化学や染色技術を発達させ、さらに人工シルクへの挑戦は合成繊維を生み出した。今ではナノテクノロジーや医療、宇宙航空機産業にまで応用範囲を広げているし、ファッションやインテリアなどの生活文化産業や感性産業も繊維が主導している産業である。 このように富岡製糸場を起点とした産業連鎖の広大な裾野(すその)を見渡すならば、世界遺産にふさわしい新たなロマンと業績を発見するのではないだろうか。 (上毛新聞 2005年3月16日掲載) |