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◎軽く扱われた新市名 愛知県知多郡の「美浜町」と「南知多町」とが合併することとなり、一月二十七日の合併協議会で新市名を「南セントレア市」とすることとし、これを発表したところ、住民から猛反発が出た。 そもそも「セントレア」とは、いかなる意味か。先月十七日、名古屋市の近郊、常滑市の沖合に「中部国際空港」が開港した。成田、関空に次いで、わが国で三番目の本格的な国際空港である。この空港の愛称が「セントレア」である。日本の中心(セントラルジャパン)にある空港(エアポート)という意味を込めた造語である。知多半島の南部にある両町が合併し、新しい市が地理的に中部国際空港(セントレア)の南に位置することから「南セントレア市」としたものである。 しかし、住民の猛反発に遭い、この名称決定は撤回され、先月二十七日、合併についての住民投票に合わせ、新市名についての住民アンケートがあらためて実施された。ところが、市の名称問題以前に合併そのものが住民投票で否決されてしまったのである。 この一連の騒動をみて思うのは、最近の日本の世相を反映しているところがあるように思える。人が物事を判断する場合、その人のこれまでの知識、経験、人格、情理など、その人の持てる全人格的な力を総動員しながら、その都度行っているはずである。 無論、午後三時のお茶の時間に、レモンティーにするか、ミルクティーにするかといったことから、自分の一生を左右するような判断や、社会、住民、国民に大きな影響を与えるような判断まで、さまざまなものがある。判断も軽いものから重いものまで、さまざまであるが、最近感じるのは、重いはずのものが軽く扱われ、それをあまり疑問に思わない風潮になっているような気がしてならない。 「南セントレア市」という名称を決めた当事者の一人、美浜町長は「豊田はトヨタになり、松下はパナソニックになって飛躍した。斬新な名前で世界にPRしないと、これからの市町村は経営できない」と主張していたそうだ。地名というのは、その地の歴史、風土、人情、景観などを背景に、なによりその地域に住んでいる多くの人たちに受け入れてもらえるようなものであるべきで、もっと慎重な判断がなされてしかるべきだったのではないだろうか。 現代は「明るい」「楽しい」「軽い」が主流であり、そのこと自体否定するつもりもないが、「暗い」「苦しい」ことから目をそらせてはいけないし、「我慢」も大事だ。まして「軽い」と「重い」の事柄の峻しゅんべつ別は、きちんとできる力を養いたい。個人の「人間力」が落ちるばかりか、ひいては社会そのものの劣化も招きかねない。 (上毛新聞 2005年3月10日掲載) |