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◎頼もしい文化の申し子 寒い日は自宅にこもりたい気持ちになるが、この季節はニューヨークでもロンドンでも、舞台鑑賞のベストシーズンである。 人々は白い息を吐きながら、熱く心を揺さぶられる舞台に期待して劇場へ急ぐ。 本県でも各地のホールで、演劇やダンスなどが上演されているが、そんな中でもとりわけホットな話題の作品を紹介しよう。きょう二十日、第五回のメモリアル公演を迎えたミュージカル劇団アラムニーの「レ・ミゼラブル」だ。 県内に数ある劇団の中で、ただひとつミュージカル専門の劇団とうたっているのには訳がある。彼女たちは前橋女子高校と太田女子高校音楽部のOGであり、高校生時代に本格的なブロードウェー作品を作り上げたメンバーなのだ。 記憶に新しいところでは、前橋女子高「ウエスト・サイド物語」や太田女子高「ミー・アンド・マイガール」が前評判通り、大勢の観客を集めて大盛況であったことだ。 三年間、朝練・昼練・夕練をこなし、学業と部活を両立させた彼女たちは、高校生としての制約の中で自己表現と舞台づくりのノウハウを学び、大きく成長した。 ホールに詰め掛けた観客は、ほとばしる汗と涙のステージから新鮮な感動を味わったに違いない。 高揚した気持ちを受験勉強に置き換えた彼女たちは大学生になり、自由な気風の中で劇団を立ち上げ、アラムニー(卒業した女の子たち)と名付けた。 かつて競い合い、啓発し合った者同士が一歩大人に近付き、声楽やバレエを本格的に学ぶ中でより本格的なミュージカル作りを進めている。 それにしても毎回、無料公演なのはどうしてかと問うと、観劇してもらうだけで幸せだからと言う。必要な経費は各自のアルバイトなどで捻出(ねんしゅつ)しているとのこと。 衣装・メーク代などの自己負担は数万円になるらしいが、それだけの価値は十分あると口をそろえるのは頼もしい限りだ。 かつて群馬は、文化の育たない風土であると言われて久しかった。その頚くび木きが取れたのは二十年ほど前の「あかぎ国体」であろう。 当時、企画の中心にあった文化事業団の合言葉は「文化県宣言」であり、「スポーツと芸術の振興」であった。そして、終了後は各自治体が引き継ぎ、地域色を鮮明にした独自の運営が今日の隆盛につながっている。 文化維新ともいうべきときに生を受けた文化県の申し子たちが、まさにアラムニーなのである。 さて「レ・ミゼラブル」は、多くのサポーターに支えられ、前橋、太田、藤岡で上演される。ビクトル・ユゴーが、パリ革命を中心に社会の底辺にうごめく人間像を神の視点からとらえた大長編をどのくらいの高いレベルで上演するのか、楽しみでならない。 (上毛新聞 2005年2月20日掲載) |