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群馬昆虫学会員 村山 聡則さん(前橋市南町)

【略歴】南九州大卒。大学在学中に昆虫の研究に目覚め、九州南部の離島でクワガタムシの新亜種を発見した。会社勤務の傍ら、自然観察指導員としても活躍。

島の食事情


◎船と密接なかかわり

 島に生物調査に行くとき、なるべく民宿か旅館に泊まるようにしている。資金難なのでキャンプする方がよいのだが、事前に荷を送ったり、乗り物を借りたりと便利だからだ。

 重要なのは、島の情報がすぐに分かること。また、キャンプ禁止の場所もあり、小笠原諸島は全域で禁止。伊豆諸島の御蔵島はキャンプの申請または宿を予約していないと、待機している駐在さんに上陸拒否・強制退去させられる。それに、島は収入源がないため、宿や店を利用してほしいのだ。よく夜を徹して海釣りをする方がいるが、宿に泊まらなくても弁当をお願いしたり、車をレンタルするため歓迎される。

 さて、島国日本では、島に渡る方法は通常、船である。しかし、季節や気象条件によっては幾日も船を出せず、物資も届かないこともある。そこで気になるのは、島の食生活である。船も来ないような生活の中では、必然的に食料は保存が利く冷凍食品が多くなる。従って、宿で出される食事も冷凍食品を解凍したエビフライやコロッケなどがメーンになるのだ。ほかに缶詰を調理したものなどが出されたり、島で栽培した野菜類なども利用される。

 その辺りの事情が分からないまま島に渡ると、大半の人は島で捕れた魚の刺し身などを期待する場合が多く、拍子抜けすることが多いのだ。しかし、こればかりは文句を言っても仕方がない。また、島の人もそのような生活が日常なので、お客にも揚げ物などが好まれると勘違いしていることもある。そんな中、刺し身が出された場合、「お客さんからです」といって、同宿した釣り客の成果が出されることも多い。私などはこの時ばかりは感謝し、ごちそうになるのだ。

 鹿児島のとある島では、調査中に子ジカが近くにいつもいて、とても愛きょうがあったのだが、宿の夕食時にシカ鍋が出され、子ジカの生首がこちらを向いていたのにはさすがに驚かされた。まさか、昼間の子ジカではないのかと当然思った。島々を渡りつなぐフェリーでは、接岸したときに島民が入ってくる光景をよく目にする。「今日はパン残ってる?」。こうして船内売店で食料調達しているのだ。到着を待っていた小学生は自販機でジュースを買う。カップラーメンやビールを買い占める人もいる。

 このように船と島人の生活は密接なのである。一航海に二百五十万円の赤字を出す航路もある。それでも島人は生きていかなければならず、そのために船は必要なのである。頻繁に通過する台風、不審船事件などが目前で起こっていても、島では現実を直視しながら生きてゆかなければならないのだ。昨年は台風の被害が非常に多かった。ある島で毎度お世話になっている民宿のおばさんに電話を入れると、屋根を飛ばされ、鹿児島から大工さんを呼び、大変だが頑張っているとの返事だった。

 沖縄では離島苦のことを「島ちゃび」という。島のおばちゃんはもろもろの島ちゃびにも負けず、今日も元気でいるだろう。そんな島のおばちゃんの食事を、また食べに行きたいと思う。

(上毛新聞 2005年2月12日掲載)