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◎子供たちの声に耳を 茨城県で相次いで両親を殺害するという悲しい事件が起きてしまいました。また、二〇〇三年度の公立小中高の児童生徒の自殺者が百三十七人もいたそうです。両親を殺害してしまった少年や青年、自ら命を絶ってしまった子供たちの心の奥底は計り知れませんが、大切な命を守るために私たち大人に何ができるでしょうか。私はわが子の不登校をきっかけに、不登校の子供たちと付き合って十年余りになりますが、子供たちの言葉の中にヒントがありそうです。 小学生のときに不登校になったF君は、お父さんに無理やり学校へ連れて行かれました。お母さんは彼の目の前で泣いたそうです。それでもどうしても学校に行けない彼は「お父さんとお母さんをこんなに悲しませている僕は悪い子なんだ」と自分を責め続けました。そして、二十二歳になった彼は、「つらかった子供の気持ちを分かろうともせず、世間体とか親側の気持ちだけを押し付けた両親は、尊敬できない最低の人間だと思っている。けれども父と母が大好きです」と言いました。 私はこの言葉を聞いて、親子とは何と複雑な関係なのだろうと思い、そして、悲しくなりました。大好きな親を人間としては最低だと言わなければならない彼も、また、悲しいのです。しかし、救われるのは親を恨むことなく、堂々と自分の意見が言えるさわやかな青年に成長したことです。 いじめから不登校になったMさんは「親に心配かけたくない」との思いから、いじめのことを打ち明けられませんでした。三人きょうだいの長女として頑張ってよい子を演じてきた彼女は、不登校になったことで、親の期待に応えることができずに「私は悪い子だ」と自分を責め続けてきました。二十歳を過ぎたころから「あの時のつらさ、苦しさを分かろうともしないで、不登校を責め続けた親に復しゅうしてやる」と思うようになりました。 今は自傷行為のリストカットをやめることができず、心療内科に通院しています。リストカットは「分かってほしい、愛してほしい」という心の叫びだと思います。 こうした若者たちの話を聞いていると、「なぜ不登校になったか」ということよりも、「つらさや苦しさを分かってほしかった」ということの方が多く出てきます。どうも不登校の原因探しをするよりも、まずは心に寄り添うことがとても大切なことのようです。 しかし、親は世間体や期待がありますから、なかなか子供に寄り添うことができません。親自身が変わらなければならないのでしょうが、信頼できる第三者がかかわることも大事です。F君は「僕にとっての本当の先生です」と慕うK先生との出会いがあり、前向きに進むことができました。不登校に限らず、私たち大人は自分の価値観を押し付けるのではなく、柔らかな頭と心で子供たちの声に素直に耳を傾けたいものです。 (上毛新聞 2005年2月9日掲載) |