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◎柔軟な受け入れ制度を 私が校長を務める日伯学園には、さまざまな道を経て当学園にたどり着いた十三歳から十六歳になる生徒が九人います。 その中の一人、A君は二歳の時、両親とともに来日し、両親の仕事の都合で一年後、弟とともにブラジルの伯母さんの家に預けられました。しかし、その伯母によって虐待されていることを両親が知り、日本に呼び戻しました。A君が七歳の時、両親は小金を蓄え、ブラジルに戻って喫茶店を始めましたが、強盗に数回入られ、無一文となって家族は再度来日しました。 ブラジルでは小学校三学年に通学していたA君は来日後、日本の小学校ではいじめなどの不安があり、近くにブラジルの学校もなかったため、いずれの学校へも通わせてもらえませんでした。小さなアパートで三年間、弟の面倒を見る毎日の中で意を決し、テレビやビデオゲームで覚えた乏しい日本語を携えて日本の中学校に入学しました。基礎がないまま入学したのですから、当然、学校からの連絡などは分かるはずもなく、ましてや学習内容なども理解できません。 出席はしても教室では毎日、天上を見上げ、しみの跡を数えたりして、つらくて長い一日を過ごしていたと言います。中学卒業後、名前が書けたら某高校へ入学できるよと、親切な(?)進路相談担当の勧めで高校へ入学しましたが、お客さん同様なA君は同級生のかつあげやいじめに遭い、何カ月もしないうちにドロップアウトし、絶望的な生活が続いたそうです。 十六歳のA君は当学園で自分より年下の子供たちと一緒に基礎(小学三年生)からやり直しをしました。しかし彼は「学校って、勉強ってこんなに楽しかったんだ」と言い、他の誰よりも真剣に勉強をしたため、三学年飛び級し今年から六年生(ブラジルでは中学二年)に進級しました。 一歩一歩夢に向かって頑張っている姿を見ていると、A君を当学園に受け入れるに当たり、教育コーディネーターや先生方にそのような生徒の受け入れ態勢が整っていないので反対もありましたが、そんな生徒たちを受け入れたことは間違っていなかったと思っています。校長として、このような子供たちにもっともっとしてあげられることがたくさんあるのではないかと、頑張る意欲がわいてきます。 少子高齢化の進む日本は、外国人労働者の受け入れがもっと進んでいくでしょう。日系ブラジル人の場合、家族で働きに来るケースが増えています。その際、その子供の年齢に応じた学年に入学しなければならない日本の学校教育制度に疑問を感じます。もっと外国人を柔軟に受け入れられる制度にできないものでしょうか。 小学校で落第があってもよいのではないでしょうか? 飛び級があってもよいのではないでしょうか? 分からなければ立ち止まり、繰り返す。一生懸命努力をして学んだ者を飛び級させればよいと思います。一人一人の能力が違うのは当然です。日本の学校で学んで、早く日本の生活に適応できるような教育を受け、日本のためになる子供が育つことが私の願いであり、夢でもあります。 (上毛新聞 2005年2月2日掲載) |