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◎失われる市場の信頼性 昨年十月十三日、西武鉄道の有価証券報告書の虚偽記載が明らかになり、市場関係者のみならず多くの人たちに驚きを与えた。そればかりか、東証一部の上場基準をクリアするため、西武鉄道のグループ中核会社コクドが、同年八月―九月に西武鉄道株を約七十社に約六百五十億円で売却していたこともその後、判明した。この事件は、その年三月に発覚した西武鉄道総会屋利益供与事件の延長線上にあるように思える。 虚偽記載が明らかになる前、西武鉄道株は千円を超えていたが、十月十三日以降急落した。結局、十一月中旬上場廃止が決定され、一カ月後の十二月十六日を最後に上場が廃止された。バブル期には一時八千円(平成元年)の値をつけた西武鉄道株の上場最後の日の終値は四百八十五円まで下がり、五十五年間の東証取引に幕を降ろした。この一連の事実はわが国の現在の経済、社会のありようについて多くのことを教えてくれた。 (1)西武鉄道のような世間の信頼度も高い公益事業にあっても、いまだ総会屋と不透明な関係を持っていたこと。 (2)コクドは西武鉄道株の上場を維持するため、その社会的地位や取引関係の地位を利用して、結果として株を高値で売り抜けた。これは単なる企業行動倫理の問題にとどまらず、刑法にも触れる問題を含んでいる。 (3)堤義明氏が「西武鉄道の上場の必要はなかった」との趣旨の発言を行ったと伝えられたが、この発言は氏の本音とも聞こえた。つまり、株の上場とは本来いかなる意味なのか。市場から幅広く資金を調達する必要がないとしたら、なぜ上場するのか。株式を上場することにより莫ばくだい大な創業者利益を得るとか、ストックオプションの活用による事業遂行インセンティブを高めたいとか、企業の透明性や公正性を明らかにするためとか、ひいてはその企業のブランド力を高めたいとか、いろいろあろう。 こうした必要性を感じなければ、上場することがかえって不都合な場合もあるかもしれない。われわれがよく知っている企業でも、上場されてないものも多い。朝日、毎日、読売などの新聞社、講談社や新潮社などの出版社も上場企業ではない。 (4)虚偽記載が明らかにされる前に、コクドの依頼によって西武鉄道株を購入した約七十社については売買を白紙に戻し、代金も払い戻されるようだが、市場で購入した一般投資家は救われない。怒りがおさまらないに違いない。これでは市場の信頼性そのものが失われる。日本人は株などの投資より元本保証の資産保有(預貯金など)を選好すると言われており、一層株式市場の信頼性が大事である。 (5)株主偽装問題は西武鉄道株にとどまらず、伊豆箱根鉄道や読売新聞グループなどのマスコミでも発覚し、一企業にとどまらないことも判明した。 透明性、公正性、市場第一など口で言うばかりでは駄目だ。もって肝に銘ずべしである。 (上毛新聞 2005年1月28日掲載) |