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高崎経済大学非常勤講師 桂川 孝子さん(高崎市岩押町)

【略歴】高崎市出身。89年上智大文学研究科教育学専攻博士課程前期修了。松下政経塾卒塾。住友生命総合研究所主任研究員を経て02年退職。共著「地域介護力」など。

企業の環境報告書


◎厳しい目がブレを正す

 「環境報告書」の一読をお勧めしたい。環境報告書とは、企業が自社の環境保全に対する理念や方針、取り組み状況などを外部に公表するために書かれたものだ。歴史は浅く、一九九七年ごろに一部の企業が発行したのを契機に、二〇〇二年にはおよそ六百五十社が公表している。日々の事業活動の中で環境負荷をどのように低減しようとしているのかが、具体的な例や数値を示しながら記載してあり、読み応えがある。

 例えば、損害保険会社ではエコ自動車割引など環境商品の販売を全商品の二割に増やす、社内のごみの排出をゼロにする、環境団体で実地体験を希望する学生に奨学金を支給し環境団体と学生の双方の支援を行う事例など。コンビニでは店舗解体の際にサッシや断熱パネルを再使用できるリユース型店舗の導入、販売期限切れ商品を回収して飼料や堆肥に利用する事例などがある。

 また、建設業では住宅の新築現場でごみを二十七種類に分別し、百パーセント再資源化している事例など。ビール工場では、生産過程で排出された仕込みかすやラベル、瓶くずなどの廃棄物を百パーセント再資源化している。その他、小売業、飲食店、製造業など、さまざまな業種で工夫や努力が行われており、驚嘆する。

 昨年あたりから、企業が公表する情報や内容が、様変わりしてきた。環境への取り組みにとどまらず、従業員のキャリアアップや福利厚生をどのように行っているのか、企業倫理の進ちょく状況などについても触れている。信頼される企業として、どのように地域社会や従業員、消費者や顧客などのステークホルダー(利害関係者)とかかわっていくつもりであるのか、その考え方を示し、具体的な行動を記すようになってきた。大企業を中心に盛んになっているCSR(企業の社会的責任)を意識した内容だ。

 CSRは「社会貢献活動(フィランソロピー)」をさらに踏み込んだものだ。企業の役割を「社会の公器」ととらえ、持続可能な社会の構築に積極的にかかわることによって、社会との信頼関係を確立していこうとする試みである。自社の経済的成功に加え、環境を重視し、従業員の満足度を高め、社会貢献を行うことを重視するとともに、そうした姿勢を明示することによって、優秀で質の高い従業員の確保も期待している。

 こうした企業の動きに対して、私たちにできることは少なくない。私たちは従業員として、顧客や消費者、地域社会の住人として、時には株主として、企業と関係を持っている。企業がステークホルダーと積極的に対話を行おうとしている今、私たちにもそれに応えるだけの姿勢や努力が求められる。企業の行動に注意を払い、正しく評価することが大切である。私たちの厳しい目が企業のブレを正し、励ましや正しい評価が企業のCSRを推進させるのだ。

 環境報告書は持続可能性報告書、環境・社会活動報告書など、さまざまな名称で呼ばれるようになり、内容も多様化してきた。しかし、一読すると企業の新しい一面がうかがえる。同時に、企業を評価する自分自身の目も養うことができる。

(上毛新聞 2005年1月23日掲載)