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◎響き合うイメージが 詩人、麓(ふもと)惣介さんは、いつも落日を胸に抱いていたように思う。 山村の 土壁に 消えのこる まぼろしの 古きいのちの きずあとの ひるがえる旗 ばつや 丸 星に 陽ひに 女のもの 男のもの さても 八階の家 鬼に金棒らしき へのへのもへじ 三足す四 はしるのは 犬か 狐(きつね)か いろはに ほへと ちりぬる をわか まさこ かずお ばか など これら この 黄昏(たそがれ)の 黄昏の うすれゆく 曼陀羅(まんだら) 僕たちが、かつて遊んだ村の壁の落書きが、夕日に匂(にお)う土壁がここに描かれてあるではないか。色彩豊かで、ノスタルジアに満ちているではないか。大人が読んでも子供が読んでも浮かび上がって響き合うイメージがある。 麓惣介さんには、手作りの詩集(和綴(と)じ形式)が百二十三冊もあり、麓惣介の詩の宇宙を形成している。そのほか、翻訳、小説、評論があり、見事な詩画集もある。そして、詩人麓惣介さんは優れた画家でもあった。絵画作品も詩のような世界が描かれている。見れば立ち止まって動けなくなるのだ。 作家の小島信夫さんが講演に来たとき、麓惣介さん宅を訪ねたことがある。小島さんいわく。「山田君はね…岐阜の天才と言われた男ですよ…。発表しないのが惜しいね、なぜなの」 詩人は、寝ころびながらいわく。「小島さん、何であんなに書くの、書き過ぎだよ。みっともないね、へへへ」 僕は思わず二人の顔を見た。二人の目は許しきって、心の襞(ひだ)に分け入るかのように微笑していた。 麓惣介(本名・山田継雄)。一九二〇年、岐阜県生まれ。東京文理大学英文科卒。その後、山形大学、群馬高専、群馬大学、育英短期大学等々に在職しては依願退職した。引っ越しも数十回している。一九五二年(三十二歳)「同時代」に参加、創作を発表する。矢内原伊作、小島信夫、宇佐美英治、宗左近等がいた。一九七四年「ランダムハウス英和大辞典」編集の責任者であった。二〇〇二年、心不全にて逝く。ひっそりと本人の念願の通り、永眠。享年八十二歳。 祭あつめつくしてこの夕焼けか (上毛新聞 2005年1月18日掲載) |