視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬ホスピスケア研究会代表 土屋 徳昭さん(高崎市中居町)

【略歴】小諸市出身、群馬大工学部卒。県内高校に28年間勤務、現在伊勢崎工業高教諭。88年の群馬ホスピスケア研究会の設立に参加し、以後代表を務める。

混合診療


◎「地獄の沙汰」の今日版

 「地獄の沙汰(さた)も金次第」ということわざは、江戸時代『浮世風呂』という書物に記述されているようだから、「金力」というものが人の命さえも左右したのは、今更に始まったことではないようだ。

 今日版「地獄の沙汰…」という状況が、「混合診療」という名目で医療の世界で問題になっている。

 現在、私たちは「健康保険」制度のもとで、かかった費用の三割負担で診療を受けることができる。病気によっては、この三割ですら高額になり、大変な負担を負うことになる。「混合診療」というのは、保険適用外の医薬品などで治療した場合、その分はもちろん、変な話だと思うが、「健康保険」適用部分の検査、手術代等も含めて全額、自己負担になるというものだ。

 がんをはじめ、難治性の病気の場合、家族は患者が治癒するためには「できるだけのことをしてください」と医療者側に願う。そのとき、保険外の医薬品、つまり、厚労省が未認可の薬剤などを使うと、これは「混合診療」ということになる。

 中には、すでに米国などで認可、臨床で実証されているものもあり、この点では早急に日本でも認可されることを望むものもあるが、その適否、効能が未確認のもの、テスト段階のもの、一部医師の論文上に登場しているにすぎないような類(たぐい)のものもある。つまり、治るという保証のない医薬品も多々含まれていて、総じて高額なものが多い。

 どんなにお金を使っても治してあげたいと願う家族に、医療者が耳元で「未承認ですが、このような薬もありますよ」とささやかれれば、「お願いします」と言わざるを得ないところに追い込まれる者もいるだろうし、とても支払い能力の限界から、断らざるを得ない者も出てくるだろう。それを使っても、使わなくても結果で苦悩するという別な問題をも惹起(じゃっき)することになることも懸念される。

 今日、医療機関は「保険診療」認定内の範囲で最大限の治療をしている。「混合診療」は構造改革という政策の中での規制緩和という大義で、制度として実現される方向に動いている。

 経済界、とりわけ製薬会社や医療参入をもくろむ企業側の論理は「患者の治療に対する選択の幅を広げる」「医療の競争原理による進展」の効果をうたう。が、果たして国民の健康と命を保証するという医療が、果たすべき役割としての制度としてふさわしいのだろうか。

 日本医師会も看護協会も健保組合側も、「国民皆保険制度」の崩壊を招くとして反対しているが、私も、この制度は「地獄の沙汰…」の今日版になるような気がする。多くの患者、国民のためには負担増という確かな代償以外に、利益、恩恵は少ない制度のように感じられてならない。

(上毛新聞 2005年1月15日掲載)