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◎すべてのものに余力を 登山には、いろいろな登り方があり、それぞれ違った楽しみが味わえます。里山ハイキングから始まり、厳冬のアルプスを目指す人たち、さらには遠く海外の高峰登山に挑む登山家もいます。そして、登山の面白さは山の大きさだけで決まるものではなく、いかにして山に取り組み、登るかが重要であると思います。 例えば、里山を歩くには、自然に対する幅広い知識が必要です。そこにすむ動物や植物、四季折々の森林文化のことなどを理解してこそ、里山が楽しく歩けるはずです。 また、高所登山を目指す人たちには、さらなる高度な技術が要求されます。一般的な登山技術はもちろん、生活技術、気象、読図等どれをとっても登山には欠かせません。 それら多くの知識をもって臨むことで、安全で楽しい登山が可能となります。 近年、中高年が中心となった登山ブームは、道具の軽量化や機能の改良が目覚ましく発展し、ブームを支えています。 さらに、山に入ると整備された登山道があり、道標が安全に導いてくれます。かつては、テントや大量の食料等を背負って登った山も、今はアクセスがよく、アプローチも短くなり、入山しやすくなりました。また、設備の整った山小屋が点在し、小さなザックに少しの荷物で簡単に頂上に立つことが可能になりました。より多くの人が自然を楽しめることは、とてもよいことだと思います。 ただ、ここで重要なことを忘れては、楽しい山も非常に危険なものに変わってしまいます。 山が身近になり、簡単に入れるようになったのは山のグレードが易しくなったわけではありません。山のもつ難しさ、自然の厳しさは昔も今も変わりはなく、むしろ登山者側が安易な考えで山に向かうとすれば、その時こそ一番危険な状態であるはずです。よく、山は余力をもって登りなさいと言います。 体力だけでなく、知識、技術、装備等すべてのものに余力をもつことが重要です。登山は常に八割くらいの力で登り、二割程度の余力を持って行うべきです。 また、技術や装備は半分以上が直接使用しなくても持ち、必要に応じて使うものも持ち歩かなければなりません。 登山はいつも計画通りにいくとは限りません。むしろ予想外のことが多く、時には危険な場面に立ち合うこともあります。 また、あえて困難に挑むことも登山に課せられた重要な行為です。自然を相手の登山ではさまざまな変化に出合い、さまざまな対応を迫られます。そんな山行を積み重ねてやっと山を知り、初めて安全に楽しく歩けるのです。 私も登山を始めて四十年がたちました。この間、さまざまな出合いがあり、多くのことを学びました。そして、今後もなお、多くの出合いを求めてより多くの知識を学ぶことができたらと思いを込め、山歩きを続けていくつもりです。 (上毛新聞 2005年1月5日掲載) |