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◎直すことで町づくりを 近代化遺産に関する保存と活用は、各地で積極的な取り組みが行われています。残された産業遺産、身近に埋もれた歴史遺産を新たな地域資源ととらえ、観光や町づくりに活用する動きが広まっています。 私は写真家として、衝撃的な出合いから、保存と活用に参加しています。それは、織物工場「 のこぎり鋸屋根」です。初めて出合ったとき、私は感動で、その場に立ちつくしていました。工場とは名ばかりの建物で、みなぎる生命力と、建築の美を感じました。その日以来、取りつかれたように、一棟一棟をカメラに収めてきました。鋸屋根とは、鋸の歯のような形をした、三角屋根をいい、採光面から光を採り入れ、主に紡績や織物などの工場建築に用いる、屋根の一形式です。 産業革命があったイギリスが鋸屋根の発祥の地で、一八二九年に出現したそうです。その後、七八年に日本へ導入され、八三年建設の大阪紡績会社三軒家工場の鋸屋根が、各地の織物工場などに取り入れられ、全国に広まったそうです。 工場といえば、かつては煙突のある三角屋根が連想されましたが、全国的に減少しています。現在、鋸屋根が数多く見られる地域は、関東甲信越から東海近畿にかけて。現在も二百五十棟以上ある桐生市の鋸屋根は木造、石造、鉄骨、れんがと変化に富み、当時の繁栄ぶりがうかがえます。職人の知恵と技が奏でるディテールの美しさ、内部に隠された巧みな構造など、奧の深い、歴史の重さを感じる建物です。日本の織物産業を築き上げてきた産業遺産の証しといえます。 しかし近年、都市部以外でも再開発が進み、こうした産業遺産は取り壊され、大型ショッピングセンターやマンションなどに姿を変えています。時代が変化し、人々の生活様式も変わり、簡単便利が近代的な生活とされ、先人が築き上げてきた歴史や文化までも、姿を消しつつあります。その結果、同じような建築物、同じような町並み景観にされています。産業遺産などの保存と活用には、問題点もありますが、文化は地域に定着し、継続され、蓄積されてこそ、固有文化であり、各町の顔が見えてくるはずです。 その町に残された文化を、あらためて認識し、所有者の意思を尊重し、自発的な保護と、自分たちの町に誇りと自信を持つことです。保存の主人公は、人なのです。修理修景することが保存の目的ではなく、直すことで町づくりを進めていく。活動することにより、人のつながりができ、コミュニケーションが生まれます。すると、古きよき物は、おのずと保存活用され、新旧の調和がとれ、文化は伝え残すことができるはずです。 鶏が先か、卵が先か、今年の干え支とにちなんで本物を観察する目を持ち、町の歴史や文化に触れ、実物を見て感じてください。 (上毛新聞 2005年1月4日掲載) |