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◎観客と俳優で新春寿ぐ 江戸の昔から「初芝居を観(み)ると縁起がいい」と言われ、髪を結いあげ、晴れ着姿で芝居見物をするぜいたくは、お正月の風物詩でもありました。 今でも一年のうちで劇場が一段と華やぐのは初芝居・お正月興行です。歌舞伎を上演する各劇場では、おめでたい雰囲気を味わいながら観劇ができるようにと、それぞれ工夫を凝らします。 私が所属している国立劇場では、劇場の入り口に門松を立てて祝い樽(だる)を積み上げ、ロビーには紅白の梅の枝、吹き抜けの天井に初芝居の登場人物を描いた大凧(おおだこ)を掲げてお客さまを迎えます。また、七草までは幕間に獅子舞があり、若手俳優による手ぬぐい撒(ま)きは、初日から千穐楽(せんしゅうらく)まで毎日行われ、にぎわいを添えています。 初芝居初日の様子を撮影することが私の仕事始めで、新聞社や雑誌社からは決まって「お正月らしいカット」が求められます。 初日に必ず見かけた日本髪もなくなり、七草までは晴れ着で観劇するという習慣も薄らぐなか、毎年、お正月らしいカットを求めて走り回っています。 徳川幕府公許の芝居小屋であった中村座、市村座、森田座の江戸三座では、初芝居の初日に「仕初(しぞめ)式」という行事が行われていました。 これは上方の芝居には見られない江戸独特のもので、紋付き、裃(かみしも)の正装で役者が舞台に居並び、座頭(ざがしら)が「巻触(まきぶ)れ」(芝居の演目、出演俳優と役名を記したもの)を読み上げ、子役の踊り初めを見せた後、手打ちをする芝居行事です。 「江戸っ子の守り神」と言われていた市川団十郎が座頭の場合は「睨(にら)み」という独特の見えを見せるのも習わしでした。師走の京都南座で襲名披露中の市川海老蔵丈が「ひとつ睨んでごらんにいれまする」と披露している、あの睨みです。時には観客に蜜柑(みかん)を撒く振る舞いもあり、お正月らしい和やかな行事であったようです。 幕末から明治初頭には打ち絶えてしまった、この「仕初式」を三日、国立劇場が復活することにしました。 初芝居の『御ひいき勧進帳』で主役を務める中村雀右衛門丈、中村富十郎丈、中村梅玉丈を中心に出演幹部俳優が打ちそろって、百二十年ぶりの「仕初式」です。 江戸時代の古式にのっとり、観客と俳優がともに新春を寿(ことほ)ぐこの芝居行事復活の試みのなかには「古きを尋ね、常に新しく愉(たの)しもう」とする、歌舞伎ならではの遊び心が込められていると思います。 (上毛新聞 2005年1月1日掲載) |