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群馬昆虫学会員 村山 聡則さん(前橋市南町)

【略歴】南九州大卒。大学在学中に昆虫の研究に目覚め、九州南部の離島でクワガタムシの新亜種を発見した。会社勤務の傍ら、自然観察指導員としても活躍。

ダム建設地を調査して


◎もっと意見を聞く場を

 アニマルトレッカーとは、研究目的のために動物を追跡し調査する者のことをいう。ただ、日本ではあまりなじみがない言葉だ。

 分野はさまざまで、動物部門、昆虫部門などがある。私の場合は昆虫部門で、対象とするのはコガネムシ亜科(コガネムシ、クワガタムシ)である。一般的にはボランティアとして活動しているため、ほとんどが無償。まれに交通費などが支給されればよい方だ。

 生息調査にはさまざまな罠わなを使う。クワガタムシの場合、主流は果物を発酵させてストッキングに入れた罠、また、最近では不要になったペットボトルを利用したものが使われるようになってきた。

 この間、NHKでも放映していたトラップは、同様にペットボトルを利用したものである。丸形のペットボトルの肩の部分に十六ミリの四角い穴を開け、人工樹液(砂糖、酢、水などを混合)を入れて、木につり下げておく。これは、夏の終わりから秋にかけて、被害が多くなるスズメバチ対策(捕獲)に利用していた。

 人工樹液の発するにおいにスズメバチは敏感に誘引されるのである。侵入したスズメバチははい上がれず、溺できし死する。ともあれ、廃棄の問題を抱えるペットボトルだが、このような利用方法があるのである。

 今年は日本自然保護部会の方からの紹介で、八ツ場ダム建設地の調査を何度か行った。山の斜面にきれいに掃除され、花が供えられた小さなお墓が幾つかあった。その背後に、同ダムの付け替え道路として国道のバイパスが造られていた。その様は何とも不釣り合いで、痛く心に残る。

 現在、アメリカではダムの寿命の短さ、自然保護など、さまざまな理由からダムを撤去する方針が取られるようになったが、日本では現地の人が納得いかないような事業を、まだ展開していくのだろうか。

 何はともあれ、調査地の家々、川原湯温泉、吾妻峡がダムの底に沈むのは時間の問題である。本県においてそういった計画が進む中で、自分でも現地で何かをできないかと考え、今回の調査に参加させていただいた次第である。データは、最終的な集計に入ったが、低山地にもかかわらず高山地性の昆虫が見られるなど貴重なデータも出ている。

 もしも、この調査でクマタカやイヌワシなどの天然記念物の生息が確認できれば、工事中止のきっかけになるかもしれない。

 八ツ場ダム建設の現状を見て思うのだが、もっと地元の意見を聞く場を設けることはできなかったのだろうか。万人がダムを望むなら賛成もしようが、反対する意見があるのだから、もっと県民全体の意見を聞いてほしかったと思う。今度、私が調査地を訪ねたとき、花の供えられたあのお墓は残っているだろうか。

(上毛新聞 2004年12月25日掲載)