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◎幼い命に誰もが共感 冬晴れの季節、雪化粧した県境の山々が見える日が多くなり、冬将軍の到来を告げています。上州名物・からっ風の吹く夜半は、市街地の灯火がキラキラと輝いて美しい夜景を見せてくれます。 黄昏(たそがれ)ゆく陽光と対照的にユズの実が、日増しに黄金色の輝きを増してゆきます。この一年の太陽の恵みを十分に蓄えた証しでしょう。 今年は浅間山の噴火、大型台風の到来、新潟県中越地震と自然のもたらす甚大な災害が相次ぎました。それに、クマたちが出没する報道が後を絶ちませんでした。あらためて自然の持つ厳しい一面を見せつけられました。自然界に寄生して生きる人間の小ささ、弱さ、危うさを思い知らされました。それにつけても、地上から戦火が絶えないのは「万物の霊長」といわれる人間の業ゆえでしょうか。 昨今、「技術中心」の考えから「生命中心」へと発想転換することが提起されています。人間の欲望は、さまざまな科学技術を発展させ、利便性を追求してきました。物質文明を謳歌(おうか)する今の時代は、「物の力」に呪縛(じゅばく)され、「いのちの不思議さ」から遠くに隔てられてしまい、「いのち感覚」を喪失しているかのように思えます。このような時代のなかで、「クリスマス物語」の原点を想起するのも意味があることでしょう。 クリスマスの出来事は馬小屋の飼い葉桶(おけ)に眠る新生児に「生きる希望」を見いだして抑圧され、虐げられた人々の物語でした。過酷な状況に置かれた人々にとって、新しい生命の誕生は「希望のしるし」でした。「聖家族」の絵画は、ごく普通の家族の出来事を描いたものでしょう。幼い命には、だれもが共感を覚えるものです。 強大な経済、軍事力によってもたらされた「PAX ROMANA」(ローマの平和)のもと、ユダヤの片田舎に生まれた幼子は、長じて「和解の福音」を抑圧された人々に語りかけました。この人のことを大江健三郎さんは、「新しい人」と称しています。 大江さんは著書『「新しい人」の方へ』に、次のように記しています。「私は、なにより難しい対立のなかにある二つのあいだに、本当の和解をもたらす人として、『新しい人』を思い描いているのです。それも、いま私らの生きている世界に和解を作りだす『新しい人(たち)』となることをめざして生き続けて行く人、さらに自分の子供やその次の世代にまで、『新しい人(たち)』のイメージを手渡し続けて、その実現の望みを失わない人のことを、私は思い描いています」と。 (上毛新聞 2004年12月24日掲載) |