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◎教育の場で浴したい 私は国の内外におけるこれまでの人生を、人里離れた山深い大自然の中で過ごした時間が長かった。それも雪深い高地であった。スキー人生ともいえるわが道である。この間、自然から、スキースポーツから多くのことを学んだり、影響を受けてきたように思う。 自然界は四季折々、日々刻々と変化し、その自然の営み(自然現象)を通じてであるが、「人間は自分という自己をもって一切を見る」と言われるごとく、私なりに自然を享受し、そこに幽玄にして神秘なる事柄が存在しているように思えてきたのである。 そのスケールの大きさ、さまざまなエネルギーを持つ力強さや荘厳さによって培われる勇気や活力。さらに、清らかさや美しさによって心身が洗われ、癒やされること。山頂から昇るご来光に手を合わせ、全我をささげる心情に至っては宗教心を抱き、聖なる地と思えるなど、自然とともに生きてきたことによる恩恵に感謝せざるを得ない。私は一人でも多くの人に、この恩恵というか、ありがたさを分かち合いたいと願っている。 自然を教育の場として実践する光栄に浴したのは、東京にあった社会体育系専門学校の十二年間にわたる教務責任者の時代だった。在学生の多くは文部大臣認定資格を目指す若者で、二年間で所定の教科二千四百時間余りを履修しなければならず、スキーを専攻する学生は雪上における実技・指導実習を含め七百四十時間余りを履修して初めて資格検定試験が受験できる厳しいものだった。 実技・指導実習は二シーズンにわたり、一シーズン十二月から三月まで一日少なくとも五時間は雪上で行われた。その間、晴天もあれば猛吹雪の日もあるが、限られた授業時間とあって休日以外の休講は許されない。担当教師も学生も日々真剣だった。 当初は責任者として不安もあった。寒冷地の厳しい天候に対応できるか、全学生が限られた時間の中で、指導者としての技術・知識水準を満たすことができるかどうか。身体的コンディション、集中力や持久力、さらに病気や傷害が常に頭から離れなかった。 それというのも、高校を卒業した入学時の態度や教室での受講態度などからして実に気掛かりであった。ところが、寝食を共にし、雪山という自然の中で、教師と学生の一体感が生まれた。 一方、自然の摂理というか、学生自身が相互理解と協力関係に目覚め、日常生活、受講態度にも目を見張るほど変化が見られるようになった。学生たちも自然の中で成長する自らを感じていた。年齢的に純粋で体力的にも旺盛な世代。素晴らしい環境に恵まれ、目的意識を明確に持った彼らの団結の成果であったように受け止めている。 人が人を教えるのと違い、自然界に存在する幽玄という影響力を一人でも多くの人に体験していただくことを願ってやまない。 (上毛新聞 2004年11月15日掲載) |