視点 オピニオン21
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中小企業診断協会県支部副支部長 森山 亨さん(桐生市堤町)

【略歴】早稲田大法学部卒。大和紡績マーケティング部長、桐生地域地場産業振興センター専務理事などを歴任。国、県などの各種懇談会、審議会で委員を務める。

発想法と創造力


◎若者は自然から学べ

 発想法や創造力開発が静かなブームになっているようだ。過去の経験が通用しなくなったにもかかわらず、一向に未来が見えてこない不安が生み出したブームなのだろう。

 どこの会議に出ても、必ず「発想の転換」という言葉を耳にするし、書店に行けば背文字に「発想法」とか「創造性」と書かれた本が所狭しと並べられている。

 インターネットでも「発想法」や「創造性」などで検索すると、驚くほどたくさんの発想法の講習会やコンサルタントの案内を見ることができる。

 しかし、こうした本を読んだり研修会に参加した人から、発想法を学んでよかったという声を聞くことはまずない。

 筆者もかつて壁に突き当たったとき、発想法に関する本を買いあさったり、高額な受講料を払ってたくさんの講習会に参加してみたが、ほとんど実務に役立つことはなかった。

 今にして思えば、発想法をマスターしさえすればアイデアが湯水のようにわくものと、単純に思い込んでいたことが間違いだったのだ。

 発想法はもともと発想のステップをマニュアル化したものなので、決められた通りに頭を働かせれば一応のアイデアが生まれるのだが、いくら発想法に熟達しても肝心な発想の元になる情報が乏しければ、食材を与えられない調理師のようなもので、いくらいい腕でも生かすことはできないというものだ。

 このことに気付いたのがきっかけで、発想の元になる知的資源を重視する自分流の創造力開発法を編み出し、自らの問題解決に役立てていたが、いつのころからか企業や官庁から創造力開発の指導を頼まれるようになり、気付いてみたら受講者は優に三千人を超えたようだ。

 こうした受講者は平均三十五歳の実務者なのだが、心配なのは彼らの創造力が年々確実に低下していることである。発想するアイデアの質も数も年々、目に見えて下がっているのだ。

 恐らく、彼らが育った時代環境が恵まれ過ぎていて、アイデアのリソースとなる自然や社会での生身の体験や、緊張感のある状況に追い込まれた経験が少ないからに違いない。

 彼らの頭の中にあるのは、触れれば鼓動や体温が伝わってくる小鳥ではなく、秋になればたわわに実のなる植物でもなく、図鑑やゲームでしか見たことのないバーチャルな動植物なのだろう。

 しかし、私たちが現に享受している豊かな文明はすべて、先人たちが自然から学び、自然を模倣し、自然を生かして生まれた発明やシステムで支えられていることと思うと、若者たちが自然から離れ、自然から学ぶことを忘れることの重大性に気付かざるを得ない。

 物的資源の乏しい日本にとって、最大の財産は知的資源であり、それを支えるのは若者たちの自然への関心性であることは今も昔も変わりはない。

(上毛新聞 2004年11月12日掲載)